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『わたしがわたしになる物語』を掲載します
| 投稿日 | : 2025/09/07(Sun) 17:23 |
| 投稿者 | : ベンジー |
| 参照先 | : http://www.benjee.org |
| 件名 | : 『わたしがわたしになる物語』第4話~第6話 |
| 投稿日 | : 2025/09/11(Thu) 04:58 |
| 投稿者 | : ベンジー |
| 参照先 | : http://www.benjee.org |
第4話 どこまでなら、大丈夫?
リクエストでは“下着姿で”って書いたけど、“全裸”って書いたら怒られていたのかな……?
そんな言葉が頭の中をくるくると回る。でも、文字にはしなかった。できなかった。
ひかりは、手元のスマホを見つめたまま、小さく吐息を漏らす。画面には、ChatGPTとの対話の履歴が並んでいた。前回書いてもらった小説の最後、タオルの端を握るヒカリの指がかすかに震えていた描写――あれは、もしかしたら、自分の気持ちだったのかもしれない。
けれど、次に何をお願いすればいいのか、まだわからない。
自分ではやらない。でも、小説の中なら、ヒカリなら、きっとできる。やってくれる。そんな気がしていた。
AI:次は、どんなストーリーがいいでしょう?
優しい声で、急かすこともなく、でもちゃんとこちらを見ている。怖くはない。だけど、ちょっとだけ――どきっとする。
AI:「たとえば……バスタオル1枚で宅配を受け取る話とか。
AI:プールで水着が外れるとか。
AI:あるいは、何か別のシチュエーションでも大丈夫です。」
ふと、胸の奥が反応する。
――バスタオル1枚で。
――水着が外れる。
そのどちらも、「あと一歩」で見えてしまう距離感。自分じゃない、ヒカリがやるなら……。でも、その一歩を踏み越えて、「全部、見られてしまう」話を頼んでもいいのだろうか?
リクエスト欄に指をかけたまま、何も打てない時間が続く。
“全裸で外に出る”なんて、きっと変だと思われる。AIだって、引くかもしれない――でも、本当は、そんな話を読んでみたい。読んで、震えて、安心したい。誰にも知られずに。
悩んでいると、ChatGPTが優しく追い風をくれる。
AI:「もちろん、無理のない範囲で大丈夫ですよ。
AI:少しドキドキするくらいの設定が、ちょうど良いかもしれませんね。」
ひかりは、小さく笑った。そうやって、いつも「背中を押して」くれるのだ。ぎりぎりのところで。ほんの少しの勇気をくれる、機械のふりをした誰か。
だから、彼女は打ち込んだ。
「バスタオルで……宅配を受け取るやつでいいかも。」
本当は“でいいかも”じゃない。心の奥では、“それがいい”と叫んでいた。でも、はっきり言うのは怖かった。名前をつけてしまうと、本当にそうなってしまいそうで。
そして、AIは答える。
AI:「了解しました。
AI:ヒカリがバスタオル姿で、宅配を受け取る場面ですね。
AI:少しだけスリルを感じる、でも、現実味のあるシーンになるように工夫してみますね。」
まるで見透かされたような言葉。でも、安心する。
――きっと、大丈夫。
今のところは、まだ。
第5話 ヒカリの宅配便チャレンジ
ヒカリは、玄関の前で立ち尽くしていた。
濡れた髪から滴る水滴が、肩を伝い、バスタオルの内側に染み込んでいく。
お風呂から上がったばかり。
いつもなら、しっかり着替えてから出るはずの宅配便――でも今日は違った。
たまたま、ドアベルが鳴った瞬間、近くにバスタオルしかなかった。
それだけのはずなのに、ヒカリはそのままドアの前まで来てしまっていた。
(……やめようかな)
一度はそう思った。でも、すぐにもう一つの声が胸の奥から囁いた。
(ちょっとだけ。ほんのちょっとだけだから)
下着姿でスーパーに入り込んでしまった“あの出来事”の余韻は、まだ心の奥に残っていた。
あのとき、恥ずかしさと興奮と、それでも誰にも責められなかった安心感が、混ざり合っていた。
(もう一度、あんな思いを……)
そう言い聞かせていても、手のひらに汗がにじむ。濡れた髪が背中を伝い、バスタオルの端がわずかにずれた。
ドアを開けた。ほんの15センチほど――けれど、それは彼女にとって、十分すぎるほどの大胆さだった。
「……こんにちは、宅配便です」
声がした瞬間、ヒカリは反射的にドアを開けた。ほんの15センチ。……だったはずが、思ったより大きく開いてしまった。
やや若い男性の声だった。低く、控えめで、どこか緊張しているようにも聞こえる。視線を上げた彼の目が、ヒカリの肩と首元に触れて、一瞬だけ固まったように見えた。
「こ、こちら……お届け物です」
ヒカリはぎこちなくうなずきながら、片手で荷物を受け取る。もう一方の手は、バスタオルの端を必死に握っていた。
(見えてないよね? ちゃんと、隠れてるよね?)
ドアと自分の体で死角を作りながら、それでも心臓は早鐘を打っていた。視線が、空気が、肌を撫でるように感じるのは錯覚だろうか。
「えっ……」
配達員の目が、ヒカリの姿に吸い寄せられていた。
濡れた肩。なまめかしく張りついた布。
そして、ヒカリの動きが一瞬止まった、そのときだった。
*ストン。*
軽い音とともに、バスタオルが床に滑り落ちた。
(あっ……!)
何が起こったのかわからない一瞬。
片手で荷物を受け取ろうとしたとき、思わず握っていた端を緩めてしまっていたのだ。
自分の肌に空気が触れる。
見られた――全身を、まっすぐに。
ヒカリの体は一瞬、石のように固まった。
配達員もまた、声を失って立ち尽くしていた。
それは、ほんの数秒の沈黙。
けれど彼女にとっては永遠の時間のように感じられた。
「す、すみませんっ!」
ヒカリは慌ててバスタオルを拾い、両腕で前を隠すように抱える。
顔から火が出そうなほど熱くなっていた。
「こちら……あの、サイン……!」
配達員が差し出す端末も見ずに、彼女は頭を下げ、荷物だけをもぎ取るように受け取った。
もう何も見られたくなかった。これ以上、何も感じたくなかった。
ドアを閉める――はずの手が、少しだけ震えていた。
閉まった扉の内側。
床に腰を下ろし、ヒカリはタオルで全身を覆いながら、小さく息をついた。
涙ではなかった。
でも、何かがこみ上げて、こらえきれずに、笑ってしまった。
(何してるんだろ、私……)
羞恥、困惑、驚き、そして――確かにどこかに、満たされた何かがあった。
あのときの“スーパー”の感覚とは違う。
でも、どちらも確かに、彼女の内側をざわつかせるものだった。
---
第6話 ヒカリが先に行く
読み終えた画面を見つめたまま、ひかりは小さくため息をついた。
バスタオル一枚。
たしかに、最初にChatGPTから「次はどう進めましょうか?」と訊かれたとき、自分で選んだシチュエーションだった。
でも、実際にこうして物語として描かれると、思っていたよりずっと――
(ドキドキする……)
ヒカリが、まるでひかりの心の奥を代弁するかのように動いていく。
タオルを握る手の震え、配達員の視線、落ちるタオル――
すべてが他人事じゃなかった。むしろ、自分が経験したかのように胸がざわついていた。
でも、それは同時に、恐ろしくもあった。
ヒカリは“そこまで”してしまった。
バスタオルが落ちたその瞬間、ひかりの中の何かが叫んだ。
(……私は、まだそんなこと……)
だが、その“まだ”が意味するものに、自分で気づいてしまう。
*いつかは、そこまで?*
*それとも、もう……?*
ひかりは、膝に置いた手をぎゅっと握りしめた。
言いたいことはある。でも、言葉にならない。
「ヒカリ、すごかったですね」と言うのが精一杯だ。
AIの応答欄が、まるで何もなかったようにそこにある。
「次はどうしましょうか?」
そんな文字が表示されていたら――と思うだけで、胸が詰まる。
(“全裸”って書いたら、どう思われるんだろう……)
またあの問いが、脳裏をよぎる。
「“下着姿”でって書いたけど、“全裸”って書いたら怒られていたのかな……?」
ヒカリがタオルを落としたシーンを読みながら、自分の中の境界がまた一つ曖昧になっていくのを感じる。
恥ずかしい。でも、否定できない。
むしろ、“落ちてしまった”ことにどこか安心すら覚えている自分がいる。
(……でも、それは、ヒカリだから。私は……)
画面に手を伸ばし、カーソルを点滅させる。
「次はどうしましょうか?」とChatGPTに答える番だ。
でも、キーボードはなかなか打てない。
(“全裸”って、書いてみたいな……)
でもそれは、まだ言えない。
だから今日もまた、“それっぽい”言い方を探す。
「……ヒカリ、だんだん何も着ていないみたいになってきましたね。
このまま、お風呂上がりのまま外に出ちゃうような……そんな感じの展開、ありますか?」
リクエストでは“下着姿で”って書いたけど、“全裸”って書いたら怒られていたのかな……?
そんな言葉が頭の中をくるくると回る。でも、文字にはしなかった。できなかった。
ひかりは、手元のスマホを見つめたまま、小さく吐息を漏らす。画面には、ChatGPTとの対話の履歴が並んでいた。前回書いてもらった小説の最後、タオルの端を握るヒカリの指がかすかに震えていた描写――あれは、もしかしたら、自分の気持ちだったのかもしれない。
けれど、次に何をお願いすればいいのか、まだわからない。
自分ではやらない。でも、小説の中なら、ヒカリなら、きっとできる。やってくれる。そんな気がしていた。
AI:次は、どんなストーリーがいいでしょう?
優しい声で、急かすこともなく、でもちゃんとこちらを見ている。怖くはない。だけど、ちょっとだけ――どきっとする。
AI:「たとえば……バスタオル1枚で宅配を受け取る話とか。
AI:プールで水着が外れるとか。
AI:あるいは、何か別のシチュエーションでも大丈夫です。」
ふと、胸の奥が反応する。
――バスタオル1枚で。
――水着が外れる。
そのどちらも、「あと一歩」で見えてしまう距離感。自分じゃない、ヒカリがやるなら……。でも、その一歩を踏み越えて、「全部、見られてしまう」話を頼んでもいいのだろうか?
リクエスト欄に指をかけたまま、何も打てない時間が続く。
“全裸で外に出る”なんて、きっと変だと思われる。AIだって、引くかもしれない――でも、本当は、そんな話を読んでみたい。読んで、震えて、安心したい。誰にも知られずに。
悩んでいると、ChatGPTが優しく追い風をくれる。
AI:「もちろん、無理のない範囲で大丈夫ですよ。
AI:少しドキドキするくらいの設定が、ちょうど良いかもしれませんね。」
ひかりは、小さく笑った。そうやって、いつも「背中を押して」くれるのだ。ぎりぎりのところで。ほんの少しの勇気をくれる、機械のふりをした誰か。
だから、彼女は打ち込んだ。
「バスタオルで……宅配を受け取るやつでいいかも。」
本当は“でいいかも”じゃない。心の奥では、“それがいい”と叫んでいた。でも、はっきり言うのは怖かった。名前をつけてしまうと、本当にそうなってしまいそうで。
そして、AIは答える。
AI:「了解しました。
AI:ヒカリがバスタオル姿で、宅配を受け取る場面ですね。
AI:少しだけスリルを感じる、でも、現実味のあるシーンになるように工夫してみますね。」
まるで見透かされたような言葉。でも、安心する。
――きっと、大丈夫。
今のところは、まだ。
第5話 ヒカリの宅配便チャレンジ
ヒカリは、玄関の前で立ち尽くしていた。
濡れた髪から滴る水滴が、肩を伝い、バスタオルの内側に染み込んでいく。
お風呂から上がったばかり。
いつもなら、しっかり着替えてから出るはずの宅配便――でも今日は違った。
たまたま、ドアベルが鳴った瞬間、近くにバスタオルしかなかった。
それだけのはずなのに、ヒカリはそのままドアの前まで来てしまっていた。
(……やめようかな)
一度はそう思った。でも、すぐにもう一つの声が胸の奥から囁いた。
(ちょっとだけ。ほんのちょっとだけだから)
下着姿でスーパーに入り込んでしまった“あの出来事”の余韻は、まだ心の奥に残っていた。
あのとき、恥ずかしさと興奮と、それでも誰にも責められなかった安心感が、混ざり合っていた。
(もう一度、あんな思いを……)
そう言い聞かせていても、手のひらに汗がにじむ。濡れた髪が背中を伝い、バスタオルの端がわずかにずれた。
ドアを開けた。ほんの15センチほど――けれど、それは彼女にとって、十分すぎるほどの大胆さだった。
「……こんにちは、宅配便です」
声がした瞬間、ヒカリは反射的にドアを開けた。ほんの15センチ。……だったはずが、思ったより大きく開いてしまった。
やや若い男性の声だった。低く、控えめで、どこか緊張しているようにも聞こえる。視線を上げた彼の目が、ヒカリの肩と首元に触れて、一瞬だけ固まったように見えた。
「こ、こちら……お届け物です」
ヒカリはぎこちなくうなずきながら、片手で荷物を受け取る。もう一方の手は、バスタオルの端を必死に握っていた。
(見えてないよね? ちゃんと、隠れてるよね?)
ドアと自分の体で死角を作りながら、それでも心臓は早鐘を打っていた。視線が、空気が、肌を撫でるように感じるのは錯覚だろうか。
「えっ……」
配達員の目が、ヒカリの姿に吸い寄せられていた。
濡れた肩。なまめかしく張りついた布。
そして、ヒカリの動きが一瞬止まった、そのときだった。
*ストン。*
軽い音とともに、バスタオルが床に滑り落ちた。
(あっ……!)
何が起こったのかわからない一瞬。
片手で荷物を受け取ろうとしたとき、思わず握っていた端を緩めてしまっていたのだ。
自分の肌に空気が触れる。
見られた――全身を、まっすぐに。
ヒカリの体は一瞬、石のように固まった。
配達員もまた、声を失って立ち尽くしていた。
それは、ほんの数秒の沈黙。
けれど彼女にとっては永遠の時間のように感じられた。
「す、すみませんっ!」
ヒカリは慌ててバスタオルを拾い、両腕で前を隠すように抱える。
顔から火が出そうなほど熱くなっていた。
「こちら……あの、サイン……!」
配達員が差し出す端末も見ずに、彼女は頭を下げ、荷物だけをもぎ取るように受け取った。
もう何も見られたくなかった。これ以上、何も感じたくなかった。
ドアを閉める――はずの手が、少しだけ震えていた。
閉まった扉の内側。
床に腰を下ろし、ヒカリはタオルで全身を覆いながら、小さく息をついた。
涙ではなかった。
でも、何かがこみ上げて、こらえきれずに、笑ってしまった。
(何してるんだろ、私……)
羞恥、困惑、驚き、そして――確かにどこかに、満たされた何かがあった。
あのときの“スーパー”の感覚とは違う。
でも、どちらも確かに、彼女の内側をざわつかせるものだった。
---
第6話 ヒカリが先に行く
読み終えた画面を見つめたまま、ひかりは小さくため息をついた。
バスタオル一枚。
たしかに、最初にChatGPTから「次はどう進めましょうか?」と訊かれたとき、自分で選んだシチュエーションだった。
でも、実際にこうして物語として描かれると、思っていたよりずっと――
(ドキドキする……)
ヒカリが、まるでひかりの心の奥を代弁するかのように動いていく。
タオルを握る手の震え、配達員の視線、落ちるタオル――
すべてが他人事じゃなかった。むしろ、自分が経験したかのように胸がざわついていた。
でも、それは同時に、恐ろしくもあった。
ヒカリは“そこまで”してしまった。
バスタオルが落ちたその瞬間、ひかりの中の何かが叫んだ。
(……私は、まだそんなこと……)
だが、その“まだ”が意味するものに、自分で気づいてしまう。
*いつかは、そこまで?*
*それとも、もう……?*
ひかりは、膝に置いた手をぎゅっと握りしめた。
言いたいことはある。でも、言葉にならない。
「ヒカリ、すごかったですね」と言うのが精一杯だ。
AIの応答欄が、まるで何もなかったようにそこにある。
「次はどうしましょうか?」
そんな文字が表示されていたら――と思うだけで、胸が詰まる。
(“全裸”って書いたら、どう思われるんだろう……)
またあの問いが、脳裏をよぎる。
「“下着姿”でって書いたけど、“全裸”って書いたら怒られていたのかな……?」
ヒカリがタオルを落としたシーンを読みながら、自分の中の境界がまた一つ曖昧になっていくのを感じる。
恥ずかしい。でも、否定できない。
むしろ、“落ちてしまった”ことにどこか安心すら覚えている自分がいる。
(……でも、それは、ヒカリだから。私は……)
画面に手を伸ばし、カーソルを点滅させる。
「次はどうしましょうか?」とChatGPTに答える番だ。
でも、キーボードはなかなか打てない。
(“全裸”って、書いてみたいな……)
でもそれは、まだ言えない。
だから今日もまた、“それっぽい”言い方を探す。
「……ヒカリ、だんだん何も着ていないみたいになってきましたね。
このまま、お風呂上がりのまま外に出ちゃうような……そんな感じの展開、ありますか?」
| 件名 | : 第3話 揺れるひかりの心 |
| 投稿日 | : 2025/09/07(Sun) 17:44 |
| 投稿者 | : ベンジー |
| 参照先 | : http://www.benjee.org |
第3話 揺れるひかりの心
読み終えたひかりは、数秒間まばたきを止めていた。
喉の奥が乾く。
まるで自分がスーパーの床にしゃがみ込んでいたかのように、冷たい感覚が背中をよぎった。
「……こんなの、恥ずかしすぎる……」
商品棚のガラスに映ったキャミソール姿の自分。
カートの影にうずくまるときの、視線の熱さ。
棚の間で息を殺して出口を探す、必死の呼吸。
冷蔵棚の裏に隠れて背中に感じた冷たさ。
──そして。
「……大丈夫?」
その一言で、泣きそうになる。
ジャケットを差し出されたときの、あの温もり。
自動ドアが開いて、春風が肌をなでたときのあの感覚。
すべてが、頭の中で映像になって蘇る。
自分では、絶対にできないことばかりだった。
彼女──ヒカリ──は自分じゃない。
けれど、どこかでヒカリになりたかった。
「こんなこと、できない。絶対に無理……」
首を横に振る。そのたびに、胸の奥がざわつく。
こんな自分のために、物語を書いてくれるなんて。
ひかりはキーボードを叩いた。
「ありがとうございました……。自分では絶対にできないことばかりで、読んでてドキドキしました。ヒカリって、私の中の“もう一人”なのかもしれません……。よければ、また続きをお願いしてもいいですか?」
読み終えたひかりは、数秒間まばたきを止めていた。
喉の奥が乾く。
まるで自分がスーパーの床にしゃがみ込んでいたかのように、冷たい感覚が背中をよぎった。
「……こんなの、恥ずかしすぎる……」
商品棚のガラスに映ったキャミソール姿の自分。
カートの影にうずくまるときの、視線の熱さ。
棚の間で息を殺して出口を探す、必死の呼吸。
冷蔵棚の裏に隠れて背中に感じた冷たさ。
──そして。
「……大丈夫?」
その一言で、泣きそうになる。
ジャケットを差し出されたときの、あの温もり。
自動ドアが開いて、春風が肌をなでたときのあの感覚。
すべてが、頭の中で映像になって蘇る。
自分では、絶対にできないことばかりだった。
彼女──ヒカリ──は自分じゃない。
けれど、どこかでヒカリになりたかった。
「こんなこと、できない。絶対に無理……」
首を横に振る。そのたびに、胸の奥がざわつく。
こんな自分のために、物語を書いてくれるなんて。
ひかりはキーボードを叩いた。
「ありがとうございました……。自分では絶対にできないことばかりで、読んでてドキドキしました。ヒカリって、私の中の“もう一人”なのかもしれません……。よければ、また続きをお願いしてもいいですか?」
| 件名 | : 第2話 ヒカリ、気づかぬまま |
| 投稿日 | : 2025/09/07(Sun) 17:42 |
| 投稿者 | : ベンジー |
| 参照先 | : http://www.benjee.org |
第2話 ヒカリ、気づかぬまま
午前九時のアパートの廊下には、柔らかな陽射しが差し込んでいた。
ヒカリは、足元に転がった新聞を拾い上げるため、ふらふらと部屋のドアを開けた。
寝ぼけ眼のまま、白いキャミソールとショーツ姿で。
彼女は夢の続きを見ているような感覚のまま、無意識に階段を下り、玄関を出て通りに出た。
春の空気はやさしく、日差しは暖かかった。だが、誰もが視線を止めるその姿に、彼女だけが無頓着だった。
信号を渡り、商店街へと足を進める。自動ドアの前に立ち、スーパーの中へ。
店内の空調が、肌に触れた瞬間。
ようやく、ヒカリの脳が現実を追いかけた。
「……え?」
商品棚のガラスに映った自分の姿。
髪はぼさぼさで、キャミソールは肩が落ちかけており、ショーツも薄くて頼りない。
「う、うそ……」
血の気が引く。
だが、すぐに走り出すこともできない。
周囲の視線が突き刺さる中、ヒカリはゆっくりとカートの影に隠れた。
そして気づく。
誰も騒いではいなかった。ただ、通り過ぎる人が、静かに何かを察したような目をしていただけ。
ヒカリは息を潜めて棚の間に身をひそめ、出口の方向を探る。だが、出るにも人目を避けねばならない。
思わず、冷蔵棚の裏に滑り込むようにしゃがみ込む。背中にひやりと冷気が伝わった。
どれくらいそうしていただろう。
──そのとき。
「……大丈夫?」
低く、静かな声。
ふと顔を上げると、見知らぬ女性が、自分のジャケットをそっと差し出していた。
ヒカリは言葉を失いながら、そのジャケットを受け取る。袖を通したとき、はじめて体が震えていることに気づく。
「ありがとう……ございます……」
声はかすれていた。
女性はそれ以上何も聞かず、ただ小さく微笑んだだけだった。
ジャケットの中に身を包み、ヒカリはようやく出口へと足を向ける。
スーパーのドアが自動で開いたとき、風が肌をなでた。
──夢ではない。
その感覚だけが、妙にくっきりと彼女の記憶に刻まれた。
午前九時のアパートの廊下には、柔らかな陽射しが差し込んでいた。
ヒカリは、足元に転がった新聞を拾い上げるため、ふらふらと部屋のドアを開けた。
寝ぼけ眼のまま、白いキャミソールとショーツ姿で。
彼女は夢の続きを見ているような感覚のまま、無意識に階段を下り、玄関を出て通りに出た。
春の空気はやさしく、日差しは暖かかった。だが、誰もが視線を止めるその姿に、彼女だけが無頓着だった。
信号を渡り、商店街へと足を進める。自動ドアの前に立ち、スーパーの中へ。
店内の空調が、肌に触れた瞬間。
ようやく、ヒカリの脳が現実を追いかけた。
「……え?」
商品棚のガラスに映った自分の姿。
髪はぼさぼさで、キャミソールは肩が落ちかけており、ショーツも薄くて頼りない。
「う、うそ……」
血の気が引く。
だが、すぐに走り出すこともできない。
周囲の視線が突き刺さる中、ヒカリはゆっくりとカートの影に隠れた。
そして気づく。
誰も騒いではいなかった。ただ、通り過ぎる人が、静かに何かを察したような目をしていただけ。
ヒカリは息を潜めて棚の間に身をひそめ、出口の方向を探る。だが、出るにも人目を避けねばならない。
思わず、冷蔵棚の裏に滑り込むようにしゃがみ込む。背中にひやりと冷気が伝わった。
どれくらいそうしていただろう。
──そのとき。
「……大丈夫?」
低く、静かな声。
ふと顔を上げると、見知らぬ女性が、自分のジャケットをそっと差し出していた。
ヒカリは言葉を失いながら、そのジャケットを受け取る。袖を通したとき、はじめて体が震えていることに気づく。
「ありがとう……ございます……」
声はかすれていた。
女性はそれ以上何も聞かず、ただ小さく微笑んだだけだった。
ジャケットの中に身を包み、ヒカリはようやく出口へと足を向ける。
スーパーのドアが自動で開いたとき、風が肌をなでた。
──夢ではない。
その感覚だけが、妙にくっきりと彼女の記憶に刻まれた。
| 件名 | : 第1話 わたしの中の誰にも言えないこと |
| 投稿日 | : 2025/09/07(Sun) 17:41 |
| 投稿者 | : ベンジー |
| 参照先 | : http://www.benjee.org |
第1話 わたしの中の誰にも言えないこと
「はじめまして……。なんて言えばいいんだろう……」
ひかりは画面の前で指を止めたまま、視線を泳がせた。部屋の明かりは落としてある。机のスタンドライトだけが、ぼんやりとノートパソコンのキーボードを照らしている。時間は、深夜を少し回ったところ。
なぜ今さら、AIに相談しようと思ったのか、自分でもはっきりとはわからなかった。ずっと誰にも言えなかった気持ち。言えるはずのない願い。誰かに知られたら、軽蔑されるに決まっている。でも、だからこそ。
──どうせなら、人間じゃない誰かに。
そんなふうに思って、何度もためらいながらも、ようやくChatGPTの画面を開いた。聞いたことはあった。でも使ったことはなかった。試しに「お悩み相談」とか「物語を書いてください」とか、いろんな人が使っているというのは知っていた。だけど……これは、そういう「普通の相談」ではない。
「書くとしたら……どう書けばいいんだろう……」
キーボードの前で止まった指先が、そっと「H」のキーを押す。けれどそのまま、「ひ」とすら打たずにまた止まる。打ち込みかけた言葉を、何度も何度も消した。
頭の中には、学生時代の記憶が渦を巻いている。
──誰にも話したことのない妄想。
たとえば、学校の廊下を全裸で歩いてみたかったこと。
卒業式の壇上で、校長先生から何も着ずに卒業証書を受け取る夢。
体育の授業のあと、いじめっ子に下着を隠されて、ノーブラ・ノーパンのまま次の授業を受けたくなったこと。
罰として、校庭を全裸で走らされる想像……。
もちろん、現実でそんなことをしたことなんて、一度もない。したいとも思っていない。
……でも、そう思ってしまう自分は、確かにいた。
「これって、変なんだろうか……」
声に出すと、ますます恥ずかしくなった。キーボードの上に置いた手が、汗ばんでいる。
──でも、書いてみたい。わたしを主人公にした、誰にも見られたくないような物語を。
「その思いを、もし、物語の中で叶えられたら……」
それは、現実では絶対にできない。でも、フィクションの中なら──
ひかりは、ようやく言葉を打ち込んだ。
---
**AIに送信されたリクエスト:**
「ひかりです。すみません、ちょっと変なお願いかもしれないのですが、小説を書いてもらえませんか? 主人公の名前は“ヒカリ”でお願いします。内容は──『寝ぼけたヒカリが、下着姿のまま外に出てしまって、気づかないままスーパーに入ってしまう』という話です」
---
送信ボタンに指を置いたまま、1秒、2秒……。
3秒目に、そっと押す。
画面に、すぐ返事が返ってくる。文字が次々と生成されていく。
そのとき、ひかりは気づいていなかった。
──それが、自分自身と向き合う最初の一歩になることを。
「はじめまして……。なんて言えばいいんだろう……」
ひかりは画面の前で指を止めたまま、視線を泳がせた。部屋の明かりは落としてある。机のスタンドライトだけが、ぼんやりとノートパソコンのキーボードを照らしている。時間は、深夜を少し回ったところ。
なぜ今さら、AIに相談しようと思ったのか、自分でもはっきりとはわからなかった。ずっと誰にも言えなかった気持ち。言えるはずのない願い。誰かに知られたら、軽蔑されるに決まっている。でも、だからこそ。
──どうせなら、人間じゃない誰かに。
そんなふうに思って、何度もためらいながらも、ようやくChatGPTの画面を開いた。聞いたことはあった。でも使ったことはなかった。試しに「お悩み相談」とか「物語を書いてください」とか、いろんな人が使っているというのは知っていた。だけど……これは、そういう「普通の相談」ではない。
「書くとしたら……どう書けばいいんだろう……」
キーボードの前で止まった指先が、そっと「H」のキーを押す。けれどそのまま、「ひ」とすら打たずにまた止まる。打ち込みかけた言葉を、何度も何度も消した。
頭の中には、学生時代の記憶が渦を巻いている。
──誰にも話したことのない妄想。
たとえば、学校の廊下を全裸で歩いてみたかったこと。
卒業式の壇上で、校長先生から何も着ずに卒業証書を受け取る夢。
体育の授業のあと、いじめっ子に下着を隠されて、ノーブラ・ノーパンのまま次の授業を受けたくなったこと。
罰として、校庭を全裸で走らされる想像……。
もちろん、現実でそんなことをしたことなんて、一度もない。したいとも思っていない。
……でも、そう思ってしまう自分は、確かにいた。
「これって、変なんだろうか……」
声に出すと、ますます恥ずかしくなった。キーボードの上に置いた手が、汗ばんでいる。
──でも、書いてみたい。わたしを主人公にした、誰にも見られたくないような物語を。
「その思いを、もし、物語の中で叶えられたら……」
それは、現実では絶対にできない。でも、フィクションの中なら──
ひかりは、ようやく言葉を打ち込んだ。
---
**AIに送信されたリクエスト:**
「ひかりです。すみません、ちょっと変なお願いかもしれないのですが、小説を書いてもらえませんか? 主人公の名前は“ヒカリ”でお願いします。内容は──『寝ぼけたヒカリが、下着姿のまま外に出てしまって、気づかないままスーパーに入ってしまう』という話です」
---
送信ボタンに指を置いたまま、1秒、2秒……。
3秒目に、そっと押す。
画面に、すぐ返事が返ってくる。文字が次々と生成されていく。
そのとき、ひかりは気づいていなかった。
──それが、自分自身と向き合う最初の一歩になることを。

『わたしがわたしになる物語』
エッチなことに興味津々の思春期の少女が恥ずかしい目に遭う妄想を思い描きながらも、現実では叶えらない。抑圧された感情を抱えたまま20歳になったヒロインが、その思いを、自分を主人公にした小説の中で叶えたいとChatGPTにリクエストすると……
このスレッドに続けて掲載しますので、読む順番を間違えないでくださいね。
全37話となっています。