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夜の殻(かわ)
投稿日
: 2025/06/05(Thu) 04:38
投稿者
:
ベンジー
参照先
:
http://www.benjee.org
**プロローグ**
咲は、会社とアパートを往復するだけの毎日を生きていた。
朝は同じ時間に起き、同じ電車に乗り、オフィスで数字を追い、定時きっかりに退社する。誰かと会話することもほとんどなく、LINEの通知は月に数回、ネット通販からのメッセージばかりだった。
部屋はいつも静かで、物音が響くたびに「自分しかいない」という現実を再確認させられた。
彼氏はいない。友達も、もう何年もいない。
趣味も持てなかった。何をしても続かなかった。読書、編み物、料理、動画編集。すべて中途半端で終わった。
「何か、始めなきゃ……」
その思いはいつもあった。けれど、「何か」が分からなかった。むしろ、**すでに興味を失ったものの山の中から、“まだやっていないこと”を消去していく作業**になっていた。
そんなある晩。
あの少女に出会った。
ショーツ一枚で、堂々と夜道を歩く姿。誰に怯えることもなく、堂々としていた。
咲が思わず「どうしたの?」と声をかけたとき、少女はただ一言、こう答えた。
**「恥ずかしいするのが、好きなんです」**
その言葉は咲にとって、**衝撃**だった。
好きとか、嫌いとか、そういう動機で「人はこんなことをするのか」と思った。
いや、**できるのか**--と。
***
あの夜から数日が経っても、咲の頭から少女の姿は離れなかった。
そしてある夜、ふと思った。
**「私はあの子を笑えない」**
恥ずかしいことは、確かに“常識”ではない。けれど、何も持たずにただ生きているだけの自分が、誰かの“衝動”を否定できる立場なのだろうか?
むしろ、それは咲にとって**残された「まだやっていないこと」だった。**
「外で裸になることを、“しなかった私”は、ずっと何も変えないままでいる気がする」
無茶だと思った。でも、考えてみれば--
**誰にも見られていない人生を生きてきたのだ。
誰かに見られることを、恐れる必要なんてあるのだろうか。**
それは、羞恥心ではなく、**生きているという実感を求める行為だった。**
***
深夜1時。
咲はベッドの上で服を脱ぎながら、胸の鼓動を数えた。
手のひらは汗ばんでいる。窓を開けると、風が肌を撫でた。
「これが私にできたら、何かが変わる。
変わらなかったとしても……今のままよりはマシ」
ドアに手をかけ、鍵を外す。
そして--
咲は、**玄関のドアをゆっくり開いた。**
外の空気が、全身にまとわりつく。
街灯の光が遠くにぼんやりと滲んでいる。静まり返った通り。誰の気配もない。
一歩、外へ踏み出す。
**--その一歩が、咲の人生で初めて、自分で選んだ“生の行動”だった。**
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咲は、会社とアパートを往復するだけの毎日を生きていた。
朝は同じ時間に起き、同じ電車に乗り、オフィスで数字を追い、定時きっかりに退社する。誰かと会話することもほとんどなく、LINEの通知は月に数回、ネット通販からのメッセージばかりだった。
部屋はいつも静かで、物音が響くたびに「自分しかいない」という現実を再確認させられた。
彼氏はいない。友達も、もう何年もいない。
趣味も持てなかった。何をしても続かなかった。読書、編み物、料理、動画編集。すべて中途半端で終わった。
「何か、始めなきゃ……」
その思いはいつもあった。けれど、「何か」が分からなかった。むしろ、**すでに興味を失ったものの山の中から、“まだやっていないこと”を消去していく作業**になっていた。
そんなある晩。
あの少女に出会った。
ショーツ一枚で、堂々と夜道を歩く姿。誰に怯えることもなく、堂々としていた。
咲が思わず「どうしたの?」と声をかけたとき、少女はただ一言、こう答えた。
**「恥ずかしいするのが、好きなんです」**
その言葉は咲にとって、**衝撃**だった。
好きとか、嫌いとか、そういう動機で「人はこんなことをするのか」と思った。
いや、**できるのか**--と。
***
あの夜から数日が経っても、咲の頭から少女の姿は離れなかった。
そしてある夜、ふと思った。
**「私はあの子を笑えない」**
恥ずかしいことは、確かに“常識”ではない。けれど、何も持たずにただ生きているだけの自分が、誰かの“衝動”を否定できる立場なのだろうか?
むしろ、それは咲にとって**残された「まだやっていないこと」だった。**
「外で裸になることを、“しなかった私”は、ずっと何も変えないままでいる気がする」
無茶だと思った。でも、考えてみれば--
**誰にも見られていない人生を生きてきたのだ。
誰かに見られることを、恐れる必要なんてあるのだろうか。**
それは、羞恥心ではなく、**生きているという実感を求める行為だった。**
***
深夜1時。
咲はベッドの上で服を脱ぎながら、胸の鼓動を数えた。
手のひらは汗ばんでいる。窓を開けると、風が肌を撫でた。
「これが私にできたら、何かが変わる。
変わらなかったとしても……今のままよりはマシ」
ドアに手をかけ、鍵を外す。
そして--
咲は、**玄関のドアをゆっくり開いた。**
外の空気が、全身にまとわりつく。
街灯の光が遠くにぼんやりと滲んでいる。静まり返った通り。誰の気配もない。
一歩、外へ踏み出す。
**--その一歩が、咲の人生で初めて、自分で選んだ“生の行動”だった。**