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fld_nor.gif 『秘めたる熱情:社交界の檻』
投稿日 : 2025/10/31(Fri) 05:56
投稿者 ベンジー
参照先 http://www.benjee.org


   『秘めたる熱情:社交界の檻』


プロローグ:熱を帯びた夜会

月明かりが降り注ぐ、荘厳な大理石のホール。数多のシャンデリアが輝き、シルクと宝石の煌めきで満たされたこの夜会は、この都市の権力と富が集中する「檻」そのものだった。

エリカ・ローゼンタールは、肌をほとんど露出しない厳重なロングドレスを纏い、まるでガラス細工のように微笑んでいた。その姿は完璧な社交界の華。しかし、彼女の心臓は激しく波打っていた。

今夜、エリカは重大な任務を負っていた。ドレスの下に仕込まれた特殊な通信デバイスを使い、闇の支配者ドミナス・ゼウスが進行中の非人道的な研究の証拠データを、外部の協力者――幼馴染のカイトに送信すること。

エリカの体質は特殊だった。彼女の肉体は、強い感情的な刺激を受けると、それをエネルギーとして吸収し、**『リリス』**と呼ばれる、より強靭で美しい異形の姿へと変身する。その力は凄まじいが、一度発動すると制御不能になり、周囲を破壊し尽くしてしまう。この夜会は、エリカの感情を揺さぶる「支配者」がいるため、極度の緊張を強いていた。

その変身を抑制しているのが、彼女が纏う特製の**「抑制ドレス」**だ。ドレスの裏地には微細な魔力回路が張り巡らされ、常にエリカの体温を適度に冷却し、興奮を抑えるための微弱な鎮静剤を皮膚から浸透させている。

「エリカ嬢、今宵も格別にお美しい」

背後から、低く、ねっとりとした声がした。ドミナス・ゼウスだ。

エリカは背筋を凍らせながらも優雅に振り返った。

「ドミナス様。光栄に存じますわ」

ドミナスはエリカの細い腰に手を添え、囁く。その指先が触れる瞬間、エリカの背筋に稲妻のような熱が走った。彼の視線は、エリカの完璧な微笑みの奥にある「何か」を見透かしているかのように、執拗だった。

「君のような美しい花が、こんな夜更けに一人きりとはもったいない。どうか、私とご一緒に」

ドミナスはエリカをダンスフロアへと誘う。エリカは拒否権がないことを知っていた。この人物の誘いを拒めば、即座に不信感を抱かれる。

「喜んで」

二人は優雅にステップを踏み始めた。周囲の視線が集中する。それはエリカにとって、最も感情が刺激されやすい瞬間だった。

第二幕:高まる熱と抑制の限界

ダンスの間、ドミナスは容赦なくエリカを追い詰めた。

「君の家が抱える『秘密』について、私も少々耳にしている。君は、まるで危うい炎をその身に宿しているようだ。しかし、その炎は、こうして**『抑制』**されている方が、より美しく見える」

ドミナスの言葉は、エリカの最も深い恐怖を突いた。彼が知っている。自分の秘密を。

エリカの心臓は警鐘を鳴らし始めた。熱が、体内を駆け巡る。鎮静剤が効き始めているにも関わらず、その熱は体温を上昇させ、肌を内側から灼きつけるような感覚をもたらした。

(ダメ…!このままでは、ドレスの冷却機能が追い付かない…!)

エリカは視線をフロアの隅に固定した。カイトが、執事のふりをして立っている。カイトの顔には、微かに焦りの色が浮かんでいた。データ送信が完了した合図だった。今すぐ、この場を離れなければならない。

「ドミナス様、申し訳ありません。少々気分が優れなくて…」

「おや、それは困る」

ドミナスは、エリカの腰を抱く腕に力を込めた。その力は、優雅さを装いながらも、エリカを逃がさないという明確な意志を持っていた。

「私の前で、君の美しい輝きを翳らせては困る。そうだ、気分転換に、このホールの奥にあるプライベートサロンへ行こう。二人きりで、ゆっくりと語り合いたい」

エリカの顔から血の気が引いた。プライベートサロンは、逃げ場のない密室だ。

「それは…」

「遠慮はいらない。さあ、エリカ」

ドミナスは半ば強引にエリカをホールから引き離し、人目につかない廊下を進む。周囲の人間は誰も見て見ぬふりだ。この場所では、ドミナスの意志が法なのだ。

廊下の冷気が、熱を持ったエリカの肌に触れる。その刺激で、一瞬、抑制力が緩んだ。

*バチッ*

ドレスの縫い目から、微弱な青い火花が散るのを、ドミナスは楽しそうに見つめていた。

「どうした?君の服が悲鳴を上げているようだね」

エリカは、額に滲んだ汗を隠すように、優雅に顔を上げた。しかし、その瞳の奥には、恐怖と激しい怒りが渦巻いていた。

(カイト…助けを求めている。早く、早く来て…!)

第三幕:抑えきれない熱情

ドミナスに引きずられるようにして、エリカはプライベートサロンへと足を踏み入れた。重厚なドアが背後で閉ざされる。二人きりの空間。ドミナスの目が、獲物を捉えた獣のように光る。

「エリカ。君の家族の事業は、私の投資なしには成り立たない。つまり、君は私のものだ。そして、私は君の『秘密』に興味がある。その秘められた『熱』を、私に見せてくれ」

ドミナスは、エリカの変身能力の秘密を知りながら、それを楽しんでいるのだ。エリカの怒りと屈辱は、制御の限界を超えようとしていた。

ドレスの中の熱が、肌を焼き始めた。抑制システムがオーバーヒートを起こしている。皮膚から浸透していた鎮静剤は、既にその役割を果たしていない。

「…いけません…」

エリカは、かろうじて言葉を絞り出した。声が震えている。

ドミナスは、エリカを壁に追い詰める。その瞬間、エリカは背中に壁の冷たさを感じた。その冷たさが、内側の熱を際立たせる。

「なぜだ?この私を前にして、何を躊躇う必要がある」

ドミナスが、エリカの細い肩に手を伸ばした。その手が、ドレスの胸元の生地に触れる。

「…いけません…このような場所でこの格好を…ああ…」

エリカの表情が苦痛に歪む。**「この格好」**とは、抑制のためのドレス。このドレスが破られれば、解放された熱は、この小さな密室で爆発的な変身を引き起こしてしまう。

ドミナスは、エリカの抵抗を喜んでいるかのように、ニヤリと笑った。

「抵抗する君も美しい。さあ、その秘密を**『脱ぎ捨てて』**くれ」

ドミナスは、エリカのドレスの背中にある特殊なフックに指をかけた。

**「…抑えきれなくなる…!」**

その叫びが、エリカの心の檻を打ち破った。

ドミナスの指がフックを外す。ドレスの背中の生地が、僅かに裂けた。その隙間から、内部の魔力回路が、激しい熱を放出しながらショートする音を立てた。

*ビシィッ!*

ドレスの抑制機能が完全に停止した。エリカの体内で解放された熱は、瞬時に体表に到達した。彼女の肌は、美しい真珠色から、炎のような薔薇色へと変わっていく。

第四幕:リリスの覚醒(お色気シーン)

熱は、エリカの全身を駆け巡った。それは、苦痛であると同時に、強烈な**『快感』**でもあった。長期間抑え込まれていた力が解放される悦び。脳髄を揺さぶるような、抗いがたい衝動。

「はぁ…ぁ…っ!」

エリカは小さな悲鳴を上げた。ドミナスは、その艶めかしい姿に目を奪われた。

「な、なんだ…この熱は…」

解放された熱は、周囲の空気を歪ませるほどの質量を持っていた。エリカの体温は急上昇し、その肌は汗と、そして変身のエネルギーの粒子で、濡れたように輝き始めた。

ドレスは、もはや彼女の体を覆う枷ではなくなった。

強大な力は、最初にエリカの『抑制』を象徴するものを破壊した。

*ブチッ、ビリビリ…!*

ドレスの胸元と背中が、内側から爆発するように弾け飛んだ。シルクと金属の破片が飛び散る。上半身を覆っていた生地は裂け、エリカの肌が露わになる。しかし、それは単なる裸体ではない。

変身が始まったのだ。

* エリカの肌には、薔薇色の光沢を持つ**鱗状の紋様**が浮かび上がり、その熱で湯気のように淡い魔力が立ち上る。
* 瞳は、情熱の赤へと変わり、理性を失いつつあることを示す。
* そして、背中からは、美しい漆黒の翼が生え出そうとする激しい**『産みの苦痛』**が始まった。筋肉が収縮し、骨格が変形する。

エリカは全身を反らせ、その胸が大きく露わになる。汗で濡れた肌と、荒い息遣い。変身のエネルギーが、彼女の体を内側から膨張させ、女性としての魅力を極限まで高めていた。

「ドミナス…あなたを…許さない…!」

エリカの意志は、もはや変身の衝動に飲まれかけていたが、最後の理性が、敵への憎悪として残っていた。その姿は、神話から抜け出てきた**『怒りの女神』**のようであり、極めて官能的であった。

ドミナスは、恐怖よりも興奮を覚えた。

「ああ、素晴らしい…!これほどの『熱』を秘めていたとは…!」

彼がエリカの裸の肩に触れようと手を伸ばした、その瞬間――

*バァン!*

ドアが激しい音を立てて吹き飛んだ。

エピローグ:カイトの乱入

「そこまでだ、ドミナス!」

全身を黒い戦闘服で覆ったカイトが、閃光のように室内に飛び込んできた。彼の目に映ったのは、上半身が露わになり、変身途中で苦痛に喘ぐエリカの姿だった。

「エリカ!落ち着け!鎮静剤を打つ!」

カイトは即座に精密な麻酔銃を構えるが、エリカの周りを覆う熱気の層が、彼を寄せ付けない。

「カイト…い、けない…!私に…触れるな…!」

エリカの瞳から、一筋の涙が溢れる。もう、彼女の力は誰にも止められない。

ドミナスは嗤う。

「ふん、手遅れだ。この熱が解放されれば、この都市は焼き尽くされるぞ。エリカはもう、ただの破壊の化身**『リリス』**だ!」

カイトは麻酔銃を捨て、ポケットから、エリカが以前に託したペンダントを取り出した。それは、彼女が唯一、精神的な安定を得られる、二人の思い出の品だった。

「違う、エリカ!君は破壊の化身じゃない!君は、僕が愛したエリカだ!見てくれ、これを!」

カイトは熱気の壁を突き破り、変身で熱くなったエリカの裸の胸元に、ペンダントを強く押し当てた。

一瞬、全てが静止した。

触れたペンダントから、カイトの純粋な「愛」と「願い」の感情が流れ込み、変身のエネルギーと激しく衝突する。

**『愛』と『熱情』の相克。**

エリカの体表の薔薇色の光が、わずかに揺らぎ、鎮静を始めた。変身は完全に完了せず、停止した。彼女の翼は背中の皮膚の下に引き戻され、荒い息遣いだけが残る。

エリカは意識を失い、ぐったりとカイトの腕に倒れ込んだ。その体は、まだ変身の名残で、火傷しそうなほどに熱かった。

カイトは、抱きしめたエリカの熱い肌を感じながら、冷たい目でドミナスを睨みつけた。

「彼女は、**君たちの道具じゃない**。僕が、必ず君の計画を潰す」

こうして、秘密の変身能力を持つ令嬢エリカと、彼女を守るエージェントであるカイトの、命懸けの戦いは、社交界の密室から、さらに大きな陰謀へと繋がっていくのだった。

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件名 『秘めたる熱情Ⅱ:覚醒の代償』
投稿日 : 2025/11/06(Thu) 17:14
投稿者 ベンジー
参照先 http://www.benjee.org

   『秘めたる熱情 II:覚醒の代償』


I. 追跡者と安息の地

大都市から遠く離れた、北の工業地帯の廃墟。錆びた鉄骨と崩れたコンクリートの奥、カイトが見つけ出したのは、旧時代の地下防空壕を改造した秘密の隠れ家だった。

エリカは、カイトの膝の上で浅い眠りについていた。彼女の肌は、以前のようにガラス細工のような透明感ではなく、微かに熱を帯び、左手の甲には、薔薇色の紋様が消えかけたように残っていた。前回の不完全な変身の代償だった。

「…熱は、まだ高いな」

カイトは自分の手の甲で彼女の額を測り、眉をひそめた。抑制ドレスを失った今、エリカの力は常時不安定だ。鎮静剤の備蓄も残りわずか。秘密組織からも、ドミナス・ゼウスの残党からも追われる身となった二人に、安息の時間はなかった。

カイトは、静かにエリカの体をソファに横たえると、通信デバイスを起動させた。

「こちら、K。データは解析できたか」

通信相手は、カイトが以前所属していた組織の裏切り者のネットワークの一員だ。

『ああ、解析は終わった。ゼウスの目的は、君の言う通りだ。エリカ嬢の**「リリス」**の力を、古代兵器**「ゼロ・コア」**の起動キーとして使うつもりだった。』

「ゼロ・コアの場所は?」

『古代兵器は、都市の地下、旧文明の**「太陽の神殿」**と呼ばれる施設に隠されている。そして、厄介なことに…起動は**来週**だ。ゼウスは生きていた。』

エリカの体がピクリと動いた。カイトは慌てて通信を切った。

「カイト…」

エリカは目を開け、かすれた声でカイトを呼んだ。

「大丈夫かい、エリカ。まだ休んでいなさい」

「休めないわ。ゼウスは…生きていたのね」

エリカは体を起こすと、自分の残る紋様を見つめた。

「私のせいで、あなたがこんな危険な目に…」

「君のせいじゃない。それに、僕が君を守るのは、義務でも責任でもない。僕自身の意志だ」カイトはそう言って、淡々とした表情で鎮静剤の入った注射器を取り出した。

「…待って」エリカは手を伸ばし、注射器を押し下げた。「お願い、今夜は打たないで。私は…あなたが私を愛しているのか、それとも、ただ『兵器のキー』として守っているのか、分からなくなるの」

カイトの表情が微かに揺れた。

「僕が君を愛しているのは、当たり前だろう。君がリリスであろうとなかろうと、関係ない」

「だったら…」エリカはそっと、カイトの冷たい手を自分の頬に寄せた。「私のこの熱を、あなたの意志で受け止めて。それがなければ、私、また抑えきれなくなる…」

エリカの瞳に、ほんの一瞬、琥珀色の中に赤が滲んだ。カイトは息を呑んだ。鎮静剤なしで、彼女の熱情を抱きしめることは、彼自身もまた、彼女の力に飲まれる危険を冒すことだった。

しかし、この女性の心の傷と不安が、彼を突き動かした。カイトは注射器を捨て、エリカを強く抱きしめた。

「分かった。僕が、君の熱を受け止める」

廃墟の隠れ家で、二人は初めて、何の抑制も枷もない状態で、お互いの存在を確認しあった。エリカの体から発せられる熱は、カイトの肌を灼いたが、彼は一切逃げなかった。

その夜、カイトはエリカの熱情が**「破壊」**だけではないことを知った。それは、強烈な生命力と、カイトに向けられた純粋な**「愛」**のエネルギーだった。その熱は、カイトの心臓の奥底まで染みわたり、彼の冷静なエージェントの鎧を溶かしていくようだった。

## II. 暴走と新たな能力

それから数日後。二人が神殿の場所を特定し、行動を開始しようとした時、隠れ家はドミナスの私設部隊によって急襲された。ドミナスはエリカの熱情を追跡する特殊なデバイスを持っていたのだ。

「エリカ、先に行け!僕はここで食い止める!」

カイトは銃を構え、部隊の前に立ちはだかった。

エリカは走った。しかし、背後から聞こえる銃声と、カイトの苦悶の叫びが、彼女の冷静さを奪った。

「やめて!カイトに触れるな!」

エリカは踵を返し、カイトの元へ引き返した。部隊のリーダーが、倒れたカイトの頭に銃口を突き付けていた。

「捕らえろ。抵抗すれば、この男の命はない」

エリカの頭の中で、何かが弾けた。恐怖、怒り、そして――カイトを守りたいという**愛**。

**『抑えきれない…!』**

前回の変身を遥かに超える凄まじい熱が、エリカの全身を内側から爆発させた。

**ガアアアァン!**

廃墟のコンクリートが割れ、エリカの体から噴出した薔薇色の炎が、部隊を一瞬にして吹き飛ばした。

彼女の姿は、完璧な**『リリス』**へと変貌していた。肌には完全な薔薇色の鱗紋様が浮かび上がり、背中からは漆黒の巨大な翼が、音もなく展開する。その圧倒的な存在感に、残った部隊員たちは震え上がった。

リリスと化したエリカは、カイトの元へと駆け寄った。カイトは腹部を撃たれ、意識を失っていた。

「カイト!カイト…!」

リリスの赤い瞳から、涙が溢れた。その涙は、彼女の熱に触れ、瞬時に蒸発した。

**「助けて…助けたい…!」**

その**「願い」**が、リリスの力を変えた。

リリスの掌から、薔薇色の炎とは対照的な、銀色に輝く**『癒しの光』**が湧き出した。光はカイトの傷口を包み込み、破壊された組織を信じられない速度で修復していく。

「馬鹿な…リリスの力は、**破壊**のみのはず…!」

逃げ遅れた部隊員が叫んだ。

エリカは、カイトの命を救うという強い愛の意志で、リリスの力を**「守り」**と**「再生」**のために使うという、新たな進化を遂げたのだ。

カイトの傷が塞がったことを確認すると、エリカの意識は限界を迎えた。リリスの姿は崩壊し、彼女はただの女性の体に戻り、意識を失ってカイトの横に倒れ込んだ。

## III. 最終決戦:愛の抑制

カイトは傷が完治した体で目を覚まし、エリカを抱き上げた。エリカが力を**「守る」**ために使えたという事実に、カイトは希望を見出した。しかし、残された時間は少ない。

「エリカ、僕たちが行くべき場所は一つだ。神殿へ」

カイトは意識を失ったエリカを背負い、都市の地下深くにある古代兵器**「ゼロ・コア」**が眠る**「太陽の神殿」**へと向かった。

神殿の最深部。そこは、巨大な円形の空間の中心に、青白い光を放つ球体、ゼロ・コアが鎮座する場所だった。そして、その前に、ドミナス・ゼウスが立っていた。

「待っていたぞ、エリカ嬢。そして…裏切り者のカイト」

ドミナスの手には、エリカの力を吸収し、ゼロ・コアに注入するための特殊な拘束具があった。

「ドミナス!古代兵器を起動させるな!世界が滅ぶぞ!」カイトは叫んだ。

「滅びはしない!**リセット**されるだけだ!この腐った世界を、私が支配する新たな世界へと変えるのだ!」

ドミナスはエリカの姿を見るなり、恍惚とした笑みを浮かべた。

「さあ、エリカ嬢。最後の**熱情**を私に捧げなさい!」

ドミナスは拘束具を発射し、エリカを捕らえようとした。カイトはエリカを庇い、銃弾を浴びながらも、彼女をゼロ・コアの前に立たせた。

「エリカ!起きてくれ!君の力が必要だ!」

カイトの呼びかけに、エリカはゆっくりと目を開けた。目の前には、世界を滅ぼすゼロ・コアの青白い光。

「カイト…私にできるのは、破壊だけじゃない…」

「そうだ!君の愛の力なら、できるはずだ!ゼロ・コアを**沈静化**させてくれ!」

エリカは最後の力を振り絞り、再び**『リリス』**へと変身した。しかし、それはもはや激情の暴走ではない。彼女の意志で制御された、静かで、圧倒的な力の発露だった。

リリスの薔薇色の光が、ゼロ・コアの青白い光と激しく衝突する。

エリカは、ゼロ・コアに手を伸ばし、全身のエネルギーを込めた。

**「私は…誰の道具でもない…!私の力は…カイトと、この世界を守るためにある!」**

彼女の体から、全てのリリスのエネルギーが、ゼロ・コアに流れ込んでいく。それは、長年抑圧されてきた熱情の、完全なる**「自己犠牲」**と**「沈静化」**だった。

ドミナスは敗北を悟り、怒りに満ちた叫びを上げた。彼の計画は、エリカの**「愛」**という計算外の要因によって、完全に崩壊したのだ。

薔薇色の光がゼロ・コアを完全に包み込むと、青白い光は完全に消滅した。エリカの力は、ゼロ・コアを破壊することなく、完全に**無力化**させたのだ。

そして、リリスの光もまた、静かに消えた。エリカは、ただの女性の体に戻り、力尽きて倒れた。

## IV. エピローグ:抑えきれない愛

廃墟となった神殿のコア。カイトは、意識を失ったエリカを抱きしめた。

彼女の肌は平熱に戻り、手の甲に残っていた薔薇色の紋様も完全に消えていた。彼女は、もう二度とリリスに変身することはないだろう。すべての力を使い果たしたのだ。

二人は、追われる日々から解放された。カイトは組織を完全に離脱し、エリカと共に、人里離れた海岸線の小さな家に住み始めた。

穏やかな夕暮れ。カイトはソファで眠るエリカの頬に、優しく触れる。エリカはそっと目を開け、カイトの顔を見つめた。

「カイト…」

エリカはゆっくりと起き上がり、カイトの首に腕を回した。彼女の瞳は、優しさに満ちた琥珀色。もう、彼女の心臓が激しく鼓動しても、誰にも、そして彼女自身にも、何の危険もない。

「もう、抑制ドレスも、鎮静剤も、誰の監視もいらない」

カイトはそっと彼女の髪を撫でた。

「…私、寂しいと思っていたの。あの**熱**がなくなったら、私じゃなくなるって…」

エリカはカイトの温もりに、全身を預けた。カイトの体に触れることで、彼女の心臓は、静かに、しかし、確実に、鼓動を早めていくのを感じた。それは、彼女の本質である情熱が、失われていないことを示していた。

**「でも、違ったわ。私、あなたに触れると…」**

エリカはカイトの唇に自分の唇を重ね、強く抱きしめる。その抱擁は、激情的なリリスの力とは違い、優しく、しかし、どこまでも深く、カイトの存在を求めていた。

その瞬間、エリカの心臓の鼓動が、カイトの心臓に伝播し、共鳴する。

彼女の体から、微かに、熱が立ち上るような感覚。

エリカはカイトの耳元で、甘く、情熱的に囁いた。

**「カイト…あなたへの想いは、もう…」**

彼女は、力を失った代わりに、世界を救った愛の証として、最も純粋で、最も熱い情熱を手に入れた。

その熱情に、カイトは静かに身を委ねた。

**「…抑えきれなくなる…!」**

その熱は、二人だけの世界を満たし、永遠に続く愛の物語の始まりを告げるのだった。

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