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fld_nor.gif 『裸の女王様』
投稿日 : 2025/12/07(Sun) 05:36
投稿者 ベンジー
参照先 http://www.benjee.org


『裸の女王様』


第1章:魅惑の宮廷

エリザベート女王は、若さと美貌で王国中の心を掴んでいた。彼女の瞳は深い碧色で、まるで海の底に隠された秘密を覗くようだった。金色の髪は絹のように輝き、彼女が歩くたびに宮廷の者たちは息をのんだ。だが、彼女の美しさ以上に人々を惹きつけたのは、彼女の自信と権力だった。エリザベートは自分の魅力が国を統べる武器だと知っていた。
ある日、宮廷に二人の旅人が現れた。彼らは異国の織物職人で、「特別な布」を持っていると豪語した。その布は、愚か者や不誠実な者には見えず、賢く純粋な心を持つ者にだけ見えるという。エリザベートは興味をそそられた。彼女は自分の知性と美を証明する機会を常に求めていたのだ。
「その布で、私にふさわしいドレスを作りなさい」と彼女は命じた。彼女の声は甘く、しかしどこか挑戦的だった。織物職人たちは微笑み、すぐに作業に取り掛かった。

第2章:誘惑の糸

織物職人たちは、宮廷の中央に巨大な織機を設置した。彼らは糸を引くふりをして、空中で手を動かし、何もない空間に「布」を織り上げていく。その姿はまるで魔法の儀式のようで、廷臣たちは目を奪われた。誰もが「布」を見ているふりをした。なぜなら、見えないと認めることは、自分の愚かさをさらけ出すことだったからだ。
エリザベートは毎晩、織機の前に立ち、職人たちの話を聞いた。彼らは布の美しさを囁き、彼女の肌に触れるその感触を称賛した。女王の心は高揚し、想像の中でそのドレスをまとう自分を思い描いた。彼女は鏡の前に立ち、裸の肩に手を滑らせ、目に見えない布が自分の曲線をどのように彩るかを夢想した。その想像は彼女を熱くさせ、宮廷の空気は欲望と期待で重くなった。
「このドレスを着れば、誰もが私の虜になる」と彼女はつぶやいた。彼女の声には、自信とわずかな不安が混じっていた。

第3章:裸の行進

ついにドレスの完成の日がやってきた。エリザベートは広間の中央に立ち、職人たちが「ドレス」を彼女に着せる儀式を行った。彼らは空気をなで、目に見えない布を彼女の体にまとわせるふりをした。廷臣たちは息をのんで見守り、口々にその「ドレス」の美しさを褒め称えた。
エリザベートは胸を張り、広間を歩いた。彼女の肌は燭台の光を浴びて輝き、まるで月光に浴した女神のようだった。彼女は自分が裸であるとは夢にも思わなかった。廷臣たちの視線は彼女の体をなぞり、その欲望の熱が彼女をさらに大胆にさせた。彼女は笑みを浮かべ、ゆっくりと歩みを進めた。
しかし、群衆の中に一人の若い詩人がいた。彼は純粋な心を持ち、権力や虚飾に惑わされない男だった。彼はエリザベートの美しさに目を奪われながらも、ついに声を上げた。
「女王様、あなたは裸です!」
その言葉は広間に響き、廷臣たちのざわめきを一瞬で止めた。エリザベートは立ち止まり、詩人を睨んだ。彼女の頬は赤く染まり、羞恥と怒りが交錯した。しかし、彼女はすぐに笑みを浮かべ、詩人に近づいた。
「私の美は、布など必要としない」と彼女は言った。彼女の声は低く、誘惑的だった。「愚か者には見えないこのドレスを、あなたには見えるのかしら?」
詩人は言葉を失った。エリザベートの自信は、裸である事実を覆い隠し、彼女をさらに神聖な存在に見せた。群衆は再び彼女にひれ伏し、詩人の言葉は忘れ去られた。

第4章:真実の代償

その夜、エリザベートは自室で鏡の前に立った。彼女は自分の裸の姿を見つめ、詩人の言葉を思い出した。彼女の心に小さな疑念が生まれたが、それを振り払うように、彼女は自分の美と権力を再確認した。
「私は女王だ。私の姿は完璧だ。誰もが私を崇める」と彼女はつぶやいた。しかし、その夜、彼女の夢には詩人の声が響き、彼女の自信に影を落とした。
やがて、王国中に「裸の女王」の噂が広まった。民衆は彼女の美を称賛したが、同時にその虚栄心を嘲笑した。エリザベートはますます大胆になり、裸のまま宮廷を歩き続けた。彼女は自分の美が真実を凌駕すると信じていた。
しかし、詩人の言葉は民衆の心に根を張り、やがて小さな反乱の火種となった。エリザベートは気づかぬうちに、自分の虚栄心が王国を揺さぶっていたのだ。

エピローグ

エリザベートは最後まで自分の美と権力を信じ続けた。彼女の物語は、王国中に語り継がれ、欲望と真実の間で揺れる人間の性を映し出す鏡となった。彼女の裸の行進は、虚栄の美しさと真実の残酷さを同時に示していた。
そして、どこかで若い詩人は新たな詩を書き始めた。それは、裸の女王の美と、彼女が見ようとしなかった真実についての物語だった。

(おわり)
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