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『波音と日焼け止め』
| 件名 | : Re: 『波音と日焼け止め』 |
| 投稿日 | : 2026/08/10(Mon) 15:03 |
| 投稿者 | : ベンジー |
| 参照先 | : |
ベルさん
挿絵をありがとうございます。
小説は別にして、左側の本を落として居眠りする光景は、どこにでもありそうですね。
ヌーディストビーチでこれができたら、超ベテランか上級者でしょうが。
挿絵をありがとうございます。
小説は別にして、左側の本を落として居眠りする光景は、どこにでもありそうですね。
ヌーディストビーチでこれができたら、超ベテランか上級者でしょうが。
| 件名 | : 挿絵を作ってみました |
| 投稿日 | : 2026/08/10(Mon) 05:24 |
| 投稿者 | : ベル |
| 参照先 | : |





波音と日焼け止め
2028年7月、静岡県のとある入り江に、日本初の「公認自由海岸」が誕生した。
正式名称は「伊豆・裸の岬海水浴場」。
看板には控えめに「全裸可・水着着用も可・撮影・ドローン禁止」と書かれているだけだった。
初日の朝、駐車場はすでに8割埋まっていた。
40代半ばのサラリーマン・田中は、会社の同僚に「行ってみたら?」と煽られて、半ばヤケクソで予約を入れてしまった。
今は後悔と好奇心が7:3くらいの割合で混ざっている。
受付で渡されたのは小さな布袋とリストバンドだけ。
「貴重品はこちらへ。服はロッカーか、ビーチの指定エリアに置いてくださいね」
若い女性スタッフが、まるで図書館の本の貸し出しのように淡々と説明する。
砂浜に降り立つと、予想以上に「普通」だった。
70歳くらいのおじいさんがラジオを聴きながら日傘の下で寝ている。
20代後半と思しきカップルが、恥ずかしそうに手をつないで波打ち際を歩いている。
家族連れもいた。小学生の男の子が「ママ、ほんとに服着なくていいの?」と大声で確認している声が遠くに聞こえた。
田中はとりあえず岩陰に座って様子をうかがった。
誰もこっちを見ていない。
誰も自分の体型を品定めしていない。
誰も「みっともない」とか「歳の割に」とか言わない。
(……あれ?)
気づいたら、自分も服を全部脱いでいた。
最初は股間を手で隠していたが、5分もしないうちに「あ、もういいか」となった。
そのまま砂の上に寝転がった。
波の音がやけに近く感じる。
太陽が肌に直接当たる感覚が、妙に新鮮だった。
子供の頃、海で泳いだあとに感じた、あの無防備な解放感に似ている。
隣のタオルの下で、50代くらいの女性がひとりで本を読んでいた。
表紙は『サピエンス全史』。
田中は思わず声をかけた。
「…面白いですか、それ」
女性は少し驚いた顔をしてから、にこっと笑った。
「まだ序盤だけどね。
人類がどうやって服を着るようになったのか、ってところまで来たの」
田中もつられて笑った。
「じゃあ、ここは人類史の逆走イベントってことですか」
「そうかもね。
一回、全部脱いでみないと、本当の自分って何なのかわからないのかも」
そのあと二人は特に深い話はしなかった。
ただ、同じ太陽の下で、同じ波の音を聞きながら、黙って時間を過ごした。
夕方近く、田中はシャワーを浴びて服を着た。
鏡に映る自分は、朝より少しだけ日に焼けていて、少しだけ肩の力が抜けているように見えた。
駐車場に向かう途中、入口の看板をもう一度見た。
「全裸可・水着着用も可」
その「も可」の二文字が、なんだかとても優しく感じた。
田中は小さく息を吐いて、
「また来ようかな」
と呟いた。
次の週末、彼は再びあの岬に向かった。
今度はタオルと日焼け止めと、あと一冊の本を手に。
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