露出小説『露出っこクラブ〜佳織』 作;ベンジー プロローグ 小学生の頃、友だちとハダカで遊ぶ夢を見た。 みんなは普通に服を着ているのに、自分だけがハダカだった。イジメられて脱がされたわけでもなく、もちろん家が貧乏で着る服がなかったというわけでもない。何気ない日常の中で気が付くとハダカ、そんな感じの夢だった。 「女の子がなんて格好しているの」 母親に見つかれば目の色を変えて怒られそうなものだ。周りの人は何も言わなかった。友だちも、皆、いつもの通りに接してくれた。夢の中での出来事に「なんで」と言うのも意味がないのはわかっていた。 人前でハダカになるのはとても恥ずかしいことだ。それは夢の中でも変わらない。 それなのに、自分はいつもハダカのまま。 決して服を着ようとしないし、誰もそれを咎めない。ハダカでいるのが当然であるかのように、時が流れていく。 卒業証書もハダカで受け取った。 そんな夢を見ていたからだろうか。中学生になった頃には、ハダカをひどく嫌悪するようになった。 雑誌のグラビアはもちろん、テレビの一場面にも目を逸らした。更衣室で友だちの体もまともに見ることができなかった。体育の授業で水着になるのを拒み、仮病を使って欠席した。修学旅行では最後に一人でお風呂に入った。身体にタオルを巻き付けたまま…… ただ一つ、ハダカで遊ぶ夢を見る頻度は、徐々に少なくなっていった。 初体験は高校生の頃だった。 相手は家庭教師の先生で、当時はまだ大学生。個人的な見解では、スポーツも勉強も、何でもできるイケメンヒーローだった。彼の父親は名のある会社の重役で、将来を約束された身でもある。両親は、娘が彼と結ばれることを望んでいたのかもしれない。 彼の腕に抱かれ、女の喜びを教えられていく内に、おかしな夢は見なくなった。彼だけが頭の中を占領して、他のことを追い出してしまったからだろう。肌と肌の触れ合いが自然な行為であると、思えるようになった。 女性経験が豊富であることはわかっていた。彼と結ばれることはないことも理解していた。それでも尚、彼は、あらゆる意味で「先生」だった。 一度だけ彼に話したことがある。小学生の頃に見続けたハダカの夢のことだ。絶対に知られたくない相手のはずなのに、どうして話してしまったのか。普通に考えたら不思議でならない。だが、きっと必要なことだったのだ。 彼は、笑わずに聞いてくれた。 「それはたぶん、露出狂というやつだね」 「露出狂……?」 「他人にハダカを見られることによって、性的な興奮を得ようとする人のことだよ」 彼はそう教えてくれた。 「言葉の響きは悪いけど、人に迷惑さえ掛けなければ、そんなに悪いことではないさ。自分の心に正直になることが一番大切なんだ」 卒業後、彼は海外研修に旅立って行った。 いつ戻ってくるかわからない。別れの一夜を過ごしてくれたことが、彼の精一杯だったのだと、今でも思っている。 第1章 脅迫メール 携帯メールの着信音が鳴る。件名に『佳織へ』と書かれたそれは、あの男からの脅迫メールだった。 佳織は、震える指先でメールを開く。本文には『エスカレーターで五階のゲームコーナーに行け』とだけ書かれていた。 平日の午後三時。駅前繁華街の一角にあるスーパーは、夕方の買い物客を受け入れる準備を始めていた。若いお母さんほうは、夕飯の買い物というより、退屈した子供たちを遊ばせるのが目的だろう。衣替えが済んだばかりの女子高生たちが、寄り道する姿も見えた。 「やるしかないのね」 佳織は、声に出していた。 エスカレーターに乗ると、すぐにスカートの裾を気になった。黒く光沢を帯びたエナメル地のスカートは、膝上二十五センチのマイクロミニだ。ショッキングピンクのTシャツは、肌にぴったりと吸い付き、ノーブラの乳首が浮き出していた。 佳織は、友だちに言われたことがある。二十一歳の女子大生なりに凹凸を魅せる姿態と、あどけなさの残るマスクのミスマッチが、周りの視線を集めるのだと。 ただでさえ身長の高い佳織は、普通に歩いていても目立った。 今日のようにハイヒールのサンダルを履けば、一七〇センチを超えてしまう。服装も履物も、すべて、あの男からの指示だった。 一階は食料品、二階は婦人服、三階は紳士服と書店・雑貨が置かれていた。もう何度も来ているスーパーだが、今日ほどエスカレーターの進む速度が遅く感じられたことはなかった。 五階まで行くのに、なぜエレベーターではなく、エスカレーターを指定したのか。あの男の意地の悪さが、わかった気がした。 四階は映画館になっている。上映しているのはたいした話題作でもないのだろう。人は、まばらだった。券売機は見えるが、受付の係員が、いるのかさえわからない。 五階に着いた。最上階である。これで下からのぞかれることはないと一息ついた。 フロアの殆どがゲームコーナーだ。いくつもの電子音が混ざり合って聞こえた。 佳織は、こういうところへの出入りが少なかった。友だちが少なかったせいもあるのだろう。今どんなゲームが流行っているのかも、わからない。 女子高生と思われるグループが、三組ほど目に入った。制服のスカートから真っ白な太ももを露出させていた。丈がまた一段と短くなったような気がした。 (でも今日は、私のほうが……) そこへ、次のメールが届いた。 『女子高生のグループを探して、近くに行け』 佳織の足が、男の命令を拒んだ。こんな格好で近づけば、ノーブラがばれてしまう。近くに女子高生がいなかったことにしてしまおうかも思ったが、あの男がどこかで見ている可能性もある。やるしかないのだ。 『近づきました』 不安は、すぐに現実のものとなった。女子高生たちの脇を通り過ぎた直後だ。 「やだ、あれ何? 露出狂」 「ノーブラじゃん」 「パンツ見えそうだよ」 耳を塞ぎたくなる思いに堪え、ゲームコーナーを歩き続けた。女子高生たちの視線が、佳織を追いかけて来た。退屈していた彼女たちにとって、絶好の獲物だったのかもしれない。 メールの着信音が鳴り、女子高生たちの囁きが止まった。 『全身プリクラに入れ。履物はカーテンの外に脱いでおくこと』 言われた通りにマシンを探す。目的のものは女子高生たちのすぐ後ろにあった。もう一度、彼女たちに近づくのかと思うと、気が遠くなる思いがした。 マシンの前で、全身に視線を感じながらハイヒールのサンダルを脱ぐ。ストッキングを履いてない佳織は、素足で中に入り、カーテンを閉めた。 「こんなに高いの履いて……」 カーテンの向こうで、女子高生のヒソヒソ声が聞こえた。 と、すぐにメールが届いた。 『パンツを脱いで、プリクラの取り出し口に入れろ』 ここに置いて行け、という意味なのか。 着替えは持っていない。こんなマイクロミニで、その上ノーパンにするつもりなのか。佳織は躊躇したが、それすらも、わずかな時間に過ぎなかった。 ショーツを脱ぎ、言われた通り、取り出し口に入れる。 『胸をはだけて、プリクラを撮れ』 佳織は、メールの指示に従うしかない。それはもう、今さら考えても、どうしようもないことだった。 『出来上がった写真は、そのままにして、プリクラを出ろ』 カーテンを開けると、女子高生たち四人と同時に目が合う。 好奇の目、蔑みの視線、疑惑の眼差し…… それらから逃げ出すように、サンダルを突っかけてその場を離れた。女子高生たちは、どう思っているのだろう。興味津々に違いない。露出狂の女が一人でプリクラに入り、どんな写真を撮っていたのか。 そんな時に、おっぱいをはだけたプリクラを見つけたら…… その下に、脱ぎたてのショーツを見つけたら…… ノーブラなのは、すでにばれている。人が集まるスーパーの店内を、下着も着けずに歩いている女。佳織は、自分の頭の停止ボタンを押したかった。 「ウソっ。マジでぇ」 機を待たず、甲高い声が佳織の背中を突き刺す。 佳織は廊下に出ると、壁に隠れて女子高生たちの様子を窺った。プリクラのカーテンからはみ出す制服の後ろ姿が見えた。 声がわずかに聞こえてくる。 「やっぱこういうの、撮ってたんだ」 「これ、あの女のだよねえ」 「ノーパンで家まで帰るのかなあ」 「そうでしょう。バッグとか持ってなかったじゃん」 女子高生たちの会話は、際限なく続いていくようだ。聞くに堪えなくなった佳織が、その場を離れようした時、次のメールが届いた。 『いよいよ今日のメインだ。その階の女子トイレに入れ』 佳織は、その日の課題を「トイレ渡り」とだけ聞いていた。場所を指定された時、スーパーのトイレでハダカにされるのだろう、くらいの想像はしていた。 トイレを探すと、すぐに案内板を見つけた。エレベーターホールの脇には、ジュースの自動販売機が数台とイスとテーブルが置かれていた。ちょっとした休憩所のようなスペースだ。 その奥に男女のトイレが並んでいた。 二つの入口の真ん中には、腰程の高さの灰皿が置かれ、男子トイレのさらに奥は、階段になっていた。 佳織は、女子トイレに入ると、胸に溜まったものを吐き出した。 中はきれいに掃除されていた。ここなら誰にも恥ずかしい姿を見られることはない。「トイレ渡り」という怪しい言葉の意味を考えることも忘れていた。 メールの着信音が、佳織を現実に引き戻す。 『着ているものを全部脱げ』 非情な命令だった。 まさに、このためにここへ呼ばれたに違いない。佳織は個室に入り、Tシャツとスカートを脱いだ。たったそれだけで、佳織は全裸だった。 残りは、ハイヒールのサンダルだけである。 『素っ裸になったら、そのまま洗面台の前まで行け』 佳織は、目を疑った。全裸のまま個室から出なければならないなんて。 いくら今は人がいないとは言え、同じフロアには、少なくとも女子高生が十数人はいる。その誰が入って来ないとも限らない。 佳織の脳裏には、さっきの女子高生に取り囲まれている全裸の自分が浮かんでいた。 『個室を出るのは勘弁してください』 佳織は禁を犯した。メールに逆らうのは、緊急の時に限られていた。 そうは言っても、スーパーのトイレでハダカになることさえ、日常ではあり得ない。個室ならまだしも、ここから出るということは、佳織にとって緊急のことに思えても仕方がないのではないか。 返事はすぐに戻って来た。 『命令に逆らえば、課題の難易度が上がるだけだと、言っておいたはずだ』 あの男は、本気なのだとわかりかった。こんなことは、まだ序の口だと、言っているような気がした。 ろくに外の様子を確かめることもなく、佳織は、個室を飛び出した。 『出ました』とだけ返信する。 洗面台の大きな鏡に自分の姿が写っていた。否応なしに、何も身に付けていない現実を突きつけられた。手に持ったTシャツとスカートで、わずかに胸を隠すのが精一杯の抵抗だった。 だが、佳織の思いも、あの男には届かない。 『洗面台の上に、自転車のチェーン鍵がある。それを服の間に通してロックしろ』 言われた通り、Tシャツの首の穴から裾に、スカートの上から下にとチェーンを通した。このままロックすれば、服を着ることができなくなってしまう。 佳織の手が止まった。 『できたか』 催促のメールが届いた。鍵を探してみたが、どこにも見当たらない。 不安になった佳織は、 『鍵はどこに?』 『ロックしたら教える』 予想したとおりの答えだったのかもしれない。 ロックしてしまえば服を着ることはできない。その後、メールが途絶えてしまえば、佳織はこの場に、全裸で放り出されることになる。その恐怖を抱いたままロックしろということなのだ。 『ロックしました』 カチッと音がして、チェーンはロックされた。試しに引っ張ってみたが、簡単に外れるようなものではなかった。 『服は畳んで、洗面台の上に置け』 佳織は、鏡の中の自分と頷き合って、 『置きました』 服が手元から離れただけで不安が倍増した。こうしている間にも誰か来たらと思うと、生きた心地がしなかった。個室に戻ろうかとも思ったが、服を残したままで、この場を離れることはできない。ただ、人が来ないことだけを祈った。 『鍵は男子トイレにある』 佳織は、携帯の画面を何度も見直した。 間違いない。あの男は、ロック付の服をここに置いたまま、全裸で男子トイレまで行って鍵を探して来いと言っているのだ。個室から出るだけでも必死の覚悟だったのに、女子トイレからも出ろと言うのだ。 『それだけは勘弁してください』 佳織は一度メールを打ったが、送信する前に思いとどまった。送っても無駄なことは、ついさっきも思い知らされていた。 (やるしかないのね) こう思うのも何度目だろう。とっくにわかっていたことなのに。 どっちにしても、鍵をとって来なければロックを解除できない。ロックしたら教えると言ったあの男の意図を、今更ながらに理解した。 佳織は、トイレの入り口に寄り、外の様子を窺う。トイレの入り口からは、休憩所のイスとテーブルが見えたが、誰もいなかった。 服を持って行こうかとも考えたが、さっきからのメールのタイミングからして、近くで監視しているとしか思えない。洗面台の上に置いて行けという命令に、逆らうことはできなかった。 女子トイレから出れば、あの男にハダカを見られてことになるのか。 大きく息を吐いて足を一歩踏み出す。ここから先は屋外と同じだ。女子トイレの中ならば、最悪の場合でも、見られるのは女性に限られるが、今からはそうはいかない。本当に誰と会うかわからない。一歩ずつが不安になる。周りが気になってならない。誰もいないはずなのに、大勢に見られているような気がした。 タイミングを計ったように携帯が鳴った。心臓が悲鳴を上げた。声を出さなかっただけでも、褒めて欲しかった。 『履物は灰皿の上に乗せていけ』 この上、素足になれと言う。 逆らってみても始まらない。言われた通りにハイヒールのサンダルを脱いで、灰皿の上に置いた。ハイヒールの中でも、かなり高い部類のサンダルだった。こんなところに乗せれば、遠くからでも目立つだろうと思った。 佳織は、とうとう一糸纏わぬ姿となった。 素足でトイレに入るのは躊躇われたが、そんなことはすでに小さなことだった。早く鍵を見つけて戻らないと、鍵も服も無くなってしまったら大変なことになる。誰もいないことを祈って、佳織は男子トイレに飛び込んだ。 人影はなかった。洗面台の作りは女子トイレと変わりがない。小用の便器が三つと、その奥に個室が二つあったが、人が入っている気配はない。 鍵は、すぐに見つかるものと思っていた。佳織は、洗面台の脇とか、見つかりやすい場所に置いてあるとばかり考えていたのだが、完全に当てが外れた。 隅々まで探したが鍵はどこにもない。あの男が置き忘れたのではないか。それとも誰が持っていってしまったのか。いろいろな考えが浮かんだが、どれも確証のないものばかりだった。 個室も一つずつ入ってみた。トイレットペーパーや便座の陰も見た。もしかしたらと思い、便器の中ものぞき込んだ。個室のさらに奥は、用具入れになっていた。バケツやモップを引っ張り出してみたが、どうしても鍵を見つけることはできなかった。 (こんなことをしている場合じゃないのに) 早く戻らなければ。そればかり考えていた。男にメールすれば良いと思いついたのは随分と時間が経ってからだった。 『鍵が見つかりません』 返事はすぐに来た。 『今、どこにいるんだ』 『五階の男子トイレです』 『俺は男子トイレとしか言ってないぞ。もしかしたら四階じゃないのか』 佳織は「やられた」と思った。 そこがトイレだということも忘れてしゃがみこむ。ここには鍵がない。こんな格好で四階まで行けというのか。 いや、四階にあるとも限らない。トイレは、こっち側だけだろうか。誰にも見つからずにフロアを横切るなんて考えられない。あの男は、一糸纏わぬ姿を晒して、スーパーの中を歩き回れというのか。 佳織は首を左右に大きく振った。 『どうした。早く探しに行ったほうが良いぞ』 あの男から、またメールが届いた。まだここにいることを知っているのだ。 やはりどこかから見ているのだろう。佳織は、鍵は四階にあると、自分に言い聞かせて立ち上がった。男子トイレの入り口から外の様子を伺う。 やはり誰もいない。灰皿の上に置いたサンダルも、そのままである。 状況は何も変わっていなかった。変わったのは、佳織がトイレの奥にある階段を降りて、四階まで行かなければならなくなったという事実だけだった。 スーパーのトイレで、ハダカになっている自分が信じられない。まして、そのままの姿で女子トイレから男子トイレまで歩いてくるなんて。 どうしてこんなことになってしまったのだろう。「トイレ渡り」というから、これでおしまいだと思っていた。それなのに、まだ、始まったばかりだったとは。 あの男には逆らうことができない。危険を冒してでも、下の階まで行くしかない。それが頭ではわかっていても、足が動かない。 (このままここにいたら、どうなるのだろう) 佳織の脳裏に、ふとそんな考えが浮かんだ。命令に逆らっているわけではない。本当に怖くてどうしようもないのだ。 このような場所で女がハダカでなることがどれだけ辛いことか、あの男にだってわかっているはずだ。出ようとしているのに出られず、この場に泣き崩れている姿を見れば許してくれるのではないか。これで終わりではないにしろ、別の命令に変えてくれるのではないか。そんな期待を思い浮かべた。 こちらからはメールをしないほうが良いだろう。もう少し様子をみるしかない、そう思った矢先だった。 『甘い夢は見ないほうが良い』 あの男からメールに全身が硬直した。佳織の心の内までお見通しというわけだ。生まれてこの方、これほど怖いと思ったことはなかった。 ◆ 露出サイト 私には親に付けて貰った名前の他に「K子」というハンドルネームがあった。 中学生の頃に覚えたインターネットだが、パソコンが家族と共用だったため自由に使うとわけにはいかなった。 アダルトサイトなど以ての外だ。 オークションやファッション、エステ関係のサイトを見て回るくらいで、満たされないモノを感じていた。せっかく付けたハンドルネームも使う機会がなかった。 大学に進学して、東京で一人暮らしを始めると、アルバイトでお金を貯め、真っ先に買ったのがノートパソコンだった。スペックは高くないが、インターネットをやるには十分だ。 検索サイトの画面を開いて、初めて検索した言葉が「野外露出」。高校の頃から、何度、その文字を打ち込んでは消したことか。私はもう随分前から、外で裸になることに興味があったのだ。 なんで野外露出に興味を覚えたのか、はっきりとしたことはわからない。 でも、きっかけの一つは、多分、隣の家の兄弟だと思う。 まだ小学校にも上がっていなかった頃のこと、私は、隣の兄弟と三人でよく遊んでいた。お兄さんのほうは、四つくらい年上で、身体も大きかった。弟さんは私より一つ下である。 ある日、遊びに行くと、兄弟でじゃれ合っていた。弟さんは丸裸でお兄さんに羽交い締めにされていた。おちんちんが丸出しだった。 それを見つけた兄弟のお母さんが、お兄さんを怒った。 「あんただって、そんなことをされたら恥ずかしいでしょう」 私も弟さんも、ハダカを恥ずかしいと感じる歳ではなかったようだ。その時は、特に感じなかったのだが、印象に残る事件だった。 大きくなるにつれて、あの時の弟さんのハダカを思い出しては、胸を高鳴らせた。 弟さんが、もし私で、大勢の友だちに全裸をさらし者にされたら、どんなに恥ずかしいか。とてもイヤなことなのに、いつの間にか、そうされる自分を思い浮かべていた。 きっかけのもう一つは、人魚姫の絵本だったと思う。 王子様に会いたくて人間になることを願った人魚姫は、魔女の力で、人間の姿になった。尾鰭は、二本の足に生まれ変わり、浜辺に打ち上げられた。一糸纏わぬ姿で両肩を抱き、砂浜に座り込んでいる様子が、絵本に描かれていた。 人魚姫は何も持っていなかった。 人間になるのと引き替えに声を奪われていたから、事情を説明することもできない。お話では王子様に拾われるが、これがもし現実だったらどうなっていただろう。 全裸のまま、どこに行く当てもなく、いつまでもハダカのままでいるしかない。それがどんなに恥ずかしいことでもだ。 私は、一枚の絵から、そんな境遇になった自分を妄想していた。 インターネットの検索結果一覧から、一番上にあったサイトをクリックする。画面に表示されたサイト、それが「管理人様」との出会いだった。 サイト名は『露出っこクラブ』。 野外露出の好きな女の子の投稿を集めて、紹介するコーナーをメインに、管理人のオリジナル小説や投稿小説、アンケートなどを集めて公開していた。 オンラインマガジンでありながら、毎月十日に更新する月刊誌スタイルは、ある意味じれったい。毎日のように新しい投稿を紹介しているサイトがいくつもあったが、長くは続かなかった。後発のサイトが現れては消える中で、『露出っこクラブ』は、十年以上に渡り、同じスタンスを貫いていた。 私も、このサイトに投稿してみたいと思った。 投稿すれば管理人から返信が貰える。露出命令だって出してくれる。そうすれば意気地なしの自分でも露出ができるようになるかもしれない。 私は、一度も野外露出を実行したことがなかった。 露出サイトの画像を見る度に、自分もこんなところで裸になってみたいと思った。 実際に裸になった玄関まで行ったことはある。だが、ドアを開けることはできなかった。それは、一人暮らしが始まっても同じだった。 「結局、私は誰かに強制されないと何もできないのかなあ」 半分以上諦めていた私にとって、最後の砦が『露出っこクラブ』だったのだ。 ===================================== 管理人さん、初めまして。 K子です。 以前からHPを拝見させて頂いていました。 野外露出には子供の頃から興味があったのですが、この歳になるまで実行できずにいました。 意気地なしの私ですが、どうかご指導をお願いします。 私に野外露出をさせてください。 よろしくお願いします。 K子 ===================================== HPに表示されていたアドレスに、メールを送ってしまってから、すぐに後悔した。 何度も書いては消してきたメールだ。取り返しの付かないことをしてしまったのではないという思いが、胸を苦しめた。 「大丈夫。メールアドレスだけなら私だってわからない。名前だって匿名だし……」 自分に言い聞かせた。 翌日の朝、パソコンを立ち上げた時には、返信が来ていなかった。残念なような、ホッとしたような、不思議な気分だった。 自分が何を望んでいるのか、わからなくない。 その日、大学の授業が終わりバイトを済ませてアパートに戻ったのは、夜の十一時に近かった。 パソコンの電源を入れておいてパジャマに着替える。メールソフトを立ち上げると訳のわからないメールが、次々とスクロールしていった。 「ウソっ……」 私は、その中に見つけた。 ===================================== K子へ メールをありがとう。これでK子も露出っこの仲間入りだね。 では、早速命令をあげよう。 K子は、初心者みたいだから、最初はノーパンに挑戦してごらん。 スカートは普通ので良いから、家のまわりを一周しておいで。 管理人 ===================================== 返信メールのタイトルで、すぐにわかった。それが自分の出したメールに対する管理人さんからの返事だと。 わかった瞬間に、指が震えた。 「本当に来ちゃった」 しかも、いきなり「露出っこの仲間入り」だと言っている。 私は、露出なんてしたことがないのに、たった一回メールしただけで、仲間にされてしまった。 それに、最初の命令まで。ノーパンで、外に出なければならないなんて。 もちろん、そんなことをした経験はない。修学旅行のお風呂も、最後までタオルを巻いていた。水着になったのも、中学校の体育の授業が最後だ。ミニスカートさえ持っていないのに。 「どうしよう」 もう夜も遅い。この時間なら人通りは少ないし、もしすれ違っても、ノーパンだと、すぐにはばれない。 アパートを出て、少しだけその辺を歩いて帰ってくるだけなら…… 私は、自分にもできる、という部分を飲み込んだ。 結局、その晩は、何もできずに布団に入った。朝までずっとドキドキしていた。 翌日の授業は、上の空だった。 何を聞いても、何を読んでも、さっぱり頭に入らない。夕べの管理人さんからのメールで、頭がいっぱいだった。 隣に座った友だちに「私は露出っこなのよ」なんて言ってみたくなる。 絶対に内緒のはずなのに、誰かに話して自慢したくなる。管理人さんに、そう認められたんだから。 いえ、管理人さんなんて失礼だわ。管理人様って呼ばなければ。そんなことばかり考えていたのでは、難しい講義など理解できるわけがなかった。 今朝、パジャマを脱いでスカートを履こうとした時、管理人様のメールを思い出した。 ――ノーパンに挑戦してごらん 確かにそう書いてあった。 ショーツを脱いでみようかとも思った。ショーツのゴムに指先を掛けてみたけど、私の行動力は、そこまでだった。 もし、履くのを忘れて学校に行ってしまったら、大変なことになる、それが理由だった。管理人様のご命令だって、家のまわりを一周することだもの、そうやって自分を納得させた。 学校に来てみて、少しだけ思う。今ここでノーパンだったらどんなだろうって。今日は家に帰ったら、管理人様のご命令を実行しなきゃと、思ったりもした。 「何かあったの」 授業が終わって、声を掛けてきたのは知美だった。 「えっ、何にもないよ」 この時、もし、私の考えていたことが筒抜けだったらと思うと、恥ずかしくてたまらなかった。二度と学校に来ることが、できなくなってしまうかもしれない。 「そうかなあ。目の焦点が合ってなかったし、心ここにあらずって感じだったよ。そんなんで後期試験、大丈夫なの」 余計なお世話とは、口が裂けても言えなかった。 私には、去年も落とした単位があって、今年は、どうあっても取らなければならない。 それなのに、最近では、寝ても覚めても露出のことばかりで、勉強が進んでいなかった。知美のほうが危なかったのに、結果的には去年の内に取ってしまい、今年はこうして私の世話を焼いている。 卒業がかかっているのだ。私だって、わかっていた。 わかっていたからこそ、この命令だけは実行して起きたかった。今のままでは、気になって勉強に身が入らない。 ところが、いざ家に戻りいつでも実行できる状況になると、決心が鈍った。 私のアパートは二階建てで、上下に三つずつ六部屋があった。間取りは全部六畳一間に台所バストイレ付きで、一人暮らしの女の子専用だった。 舎監はいない。ドラマに出てくるようなワンルームマンションとはいかないが、女子大生には、これでも贅沢だったかもしれない。外階段を上がって二階の一番奥が、私の部屋だった。 パソコンの前に座って、いつもの露出サイトを見て回る。 日課になっているのだから、そうそう代わり映えのするものではない。それでも、二周三周と同じサイトを巡回する。ノーパンになる時間を先延ばしにしているだけだと、わかっているのに。 行動に移すことができたのは、深夜になっていた。 ショーツを脱ぎ、厚手の生地のロングスカートを履いた。これなら突風が吹いてもスカートがめくれることはないだろう。上はセーターにダウンジャケットを着込んだ。 大丈夫。こんな時間では人もいないし、もし見つかったって、誰にもノーパンだってばれるはずがない。 玄関から出るとなると、話は別だった。 ドアノブを握っては離し、離してはまた握る。そういう動作を何度も繰り返し、ようやくドアが開いた。 ここから先が野外であることを知らせるように、夜風が部屋に吹き込んで来た。 何もこんなに寒い時期に始めなくても良さそうなものだ。一度大きく息を吐いて一歩目を玄関の外に踏み出す。 (何やっているの。あなたがしたいのは野外露出でしょう。ハダカで外に出ることなんでしょう。まだ全然ハダカじゃないのに) 他人からみれば普通の格好だった。 ただ、ショーツを履いていないというだけで、私は緊張しまくっていた。 露出未経験の私から、管理人様のいう露出っこに変わろうとしていた。踏み出してしまえばもう後には戻れない。確かに願望はある。 でも、本当にそれで良いのか。 答が出ていない。だから迷う。一歩目が外に出ていても、今なら、まだ、この足一本引っ込めれば済むことだ。 それまでの私なら、ここで足を引っ込めていたことだろう。 ノーパンで外に出る行為だって、ずっと前から知っていた。他にやっている子は大勢いる。私だけが変態というわけではない。それでもできなかった一歩だが、今夜は少しだけ違っていた。 「管理人様が、認めてくれたじゃない」 メールを初めて見た時より、その思いが強くなっていた。 管理人様が背中を押してくれるなら、きっと、私にもできる。それだけを支えに、二歩目を踏み出した。 ===================================== 管理人様、こんばんは。 K子です。 先日頂いたご命令を実行してきました。 他の子から比べたら、全然たいしたことないのは、わかっています。 でも、今の私には、ノーパンで外に出るだけで大変なことでした。 スカートは足首まであるような長いものでした。 絶対にばれるわけないと思っていましたが、それでも初めての露出に興奮してしまいました。 玄関を出て、ほんの少し歩いただけで部屋に戻ってしまいました。 でもこれで、何かが吹っ切れたような気がします。 素敵なご命令を、ありがとうございました。 K子 ===================================== 二度目のメールをしてしまった。 報告には「少し歩いただけ」と書いたが、実際には、部屋を出て玄関のドアを閉めた途端に、隣の部屋から携帯電話の着信音が聞こえた。 一も二もなく、引き返してしまった。 全く情けない話だ。 そんなに怖いなら、露出なんて興味を持たなければ良いのにと、醒めた時の私は思う。つまり私は、醒めている時が少ないのだ。 とにかく、これで区切りを付けたつもりだった。 一度でも報告の返信をしておけば、試験が終わった後で、また、ご命令が貰えると思っていた。 ===================================== K子へ 初めてのノーパン体験、ご苦労さん。 ちゃんと報告もできたのだね。 K子は、私の露出っこなのだから、これくらいは当たり前だ。 でも今回は追試かな。 私は家のまわりを一周と書いたのだよ。 スカートも、せめて膝上にすること。 他の子と比べる必要はないけど、もう一度頑張っておいで。 管理人 ===================================== 管理人様からの返信が、翌朝には届いていた。 最初は、言われた通りにできなかった私に、怒っているのかとも思った。 とにかく試験が終わってからにしたかったのだが、「私の露出っこ」という文字が、まぶたの裏に焼き付いてしまった。 私は、管理人様の露出っこ。だからご命令は、確実に実行しなければならないんだって。 今夜、もう一度、挑戦しようと決心した。 (つづく)
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