投稿小説

『戦国の美女 〜お幸編〜』

                    作;大空和美

乳母はお寺に連れて行かれた。
子供達をどうしようと考えている時に住職から糸屋の2歳になる娘が先日ちょうど病気で亡くなった話を聞いた。
それで2歳のお雪は糸屋に養子に入れることにした。
しかし、生まれたばかりの赤子は乳が必要なので乳母がお寺で育てるしかなかった。
お幸と名付けた。
お幸が13歳の時に見知らぬ武士が乳母を訪ねて来た。
乳母と武士が話しているのを盗み聞きした。
「お幸様も母上に似てきましたな。
美人になりましたね。ところで市川団兵衛の悪政を正すためにも、お幸様を大将として敵討ちしたい所存でございます。
我らの父上も皆殺されたのですから」
「でもお幸様は女子ですし、そんな大役務まるはずもございません」
というような話をして出て行った。
お幸は乳母を問いただした。
「ややはお母さんじゃないの?どういうことなの?私ももう子供じゃないわ。詳しく話して」というので乳母は出生の秘密を話した。
「でも決して仇を討とうなんて思わないでね。
今までどおりの生活が一番いいのよ」
しかし、お幸は母上の不幸を思い、仇を討ちたいと思った。女の体でどうすれば仇を討てるだろうか。
短刀をお尻の穴に入れることを思いついた。
毎日、練習した。
17歳になった。
お城の近くの茶店で働くことにした。
客に愛嬌を振りまいた。
お城でかわいい娘が働いていると有名になり、市川団兵衛もうわさを耳にして茶店に行ってみた。
一目で気に入り、めかけに加えることにした。
その夜、市川団兵衛と寝た。
お幸も裸になったが団兵衛は短刀には気付かなかった。
「お前かわいいなあ。世は満足じゃ」と言って仰向けになった。
寝息が聞こえてきた。
この時とばかりお尻から短刀を出して切りかかろうとした。
しかし団兵衛はとっさにお幸の手をつかんだ。
市川団兵衛は「女如きに俺様が切られるか」と言って「誰かおらぬか」と叫んだ。
家来達が走ってきた。
「こやつ。俺を殺そうとした。
舌を噛んで死なぬように猿轡を噛ませて縛って地下牢に放り込んでおけ」
お幸は裸のまま縛られ猿轡を噛まされて地下牢に放り込まれた。
「あやつの正体を調べろ。殺してはならぬ。
あんな美人はめったにいない。もったいない」
家来の佐々木小五郎が策略を話した。
「ふむふむ、それは良い案だ。家来を10人程遣わそう。それでうまく行くのだな」
「うまくやって御覧に入れます」
その夜、佐々木小五郎が地下牢にやって来た。
お幸の猿轡をはずし縄を解いた。
「お幸様、助けに来ました。早く早く」
「えっ、私を?」
「見張りが来ぬうちについて参れ」
「何か着る物はないでしょうか。恥ずかしい」
「じゃあ、この着物を」と言って自分の着物を脱いで渡した。
「すみません」
「いや、時間が無かったので着物を用意できず申し訳ありません」
「いえ、いいんです。でもどうやって逃げたらいいのですか」
牢の入り口には牢番の死体が転がっていた。
「いいから着いて参れ」
井戸に着くと縄を掴み「早く早く」と呼んだ。
井戸を降りると途中に横穴があり地下道になっていた。
「こんな仕掛けがあったの?よくご存知でしたね」
「いいからいいから」
地下道を進むとお城の外に出た。
出口付近に古い神社があった。
「ひとまず、この屋根裏に隠れましょう」
屋根裏には小さな部屋があり食料品や水や少々の武器が置いてあった。
「ここは何?」
「敵が攻めてきた時に逃げるために使うのさ」
「どうして知ってるの?」
「私の父親がからくり師で、お城にいろいろとからくりを作ったのさ。これはその一つだよ」
「じゃあ、現在の殿様もこの地下道ご存知なの?」
「知っているだろうけど、そなたが逃げるときに使うとは思いつかないだろうから安心さ」
「いろいろとありがとうございます。お名前聞いていませんでしたがお聞きして構いませんか?」
「勿論、佐々木小五郎と申します。してあなたのお名前は?」
「お幸といいます」
佐々木は鎌をかけてきた。
「して、なぜ市川団兵衛を殺そうとしたのです?
我々も市川団兵衛に恨みを持つ者達です」
「実は・・・」とすっかり信用してしまい洗いざらい話してしまった。
「そうですか、こちらも人数が少なくて決行すべき時期を窺がっていたのです。仲間と相談しますので今夜はここでお休み下さい」
佐々木は出て行った。
「ああ良かった。佐々木さんて素敵な方」
次の日、佐々木小五郎が仲間を連れてきた。
この者たちが私の仲間だ。あんたの仲間と共に戦おうではないか」
「全部で10人ですか。私の仲間は20名です。
共に戦えば勝てるかもしれない」
「じゃあ、貴方の乳母の所に連れて行って貰えないだろうか」
「勿論」と言って乳母の所に連れて行った。
「お母様、お久しぶり。新しい仲間を10人連れてきました」
「信用できるのかえ」
「私が保証します。佐々木さんが牢から助けてくれたのです。佐々木様は秘密の通路も知っていますしお城のいろいろな仕掛けも知っているそうです。
全員で戦えば必ず勝てます」
「佐々木様がどうして?」
「佐々木様のお父さんがからくり師で、お城のからくりを設計したんだそうです。ですからお城のからくりは全てご存知なんだそうです」
「それは心強いですね。じゃあ、早速仲間に連絡してここで落ち合うことにしましょう」
「お幸さん。準備が整うまで、あなたのお姉さんがいる糸屋に身を隠してください」
「姉さんには会いたいけど、迷惑がかかるといけないから会いません」
「お城襲撃の準備に1〜2ヶ月かかるので、その間だけですから迷惑はかかりません」
「でも・・・」
「大丈夫です。その代わり私の言うとおりにするのですよ」
「絶対に大丈夫ね」
「絶対に。じゃあこの着物に着替えて」
糸屋に出かけた。
「あのう、私、お城の家来で佐々木小五郎と言います。突然おじゃまして申し訳ないのですが糸屋にたってのお願いがございます」
「なんの御用でしょうか?」
「この娘お幸といいますが、しばらく下女として使っていただけないでしょうか」
「どうしたのです?」
「この子の父上が、お城の改装工事の棟梁に雇われて大阪から来たのですが、改装が終わるまでお城から出ることができません。
他所から来た女子供はお城に置いておけない決まりがありますのでこの娘一人になってしまいます。
それで改装が終わるまで1〜2ヶ月間この娘を預かってほしいのです」
「分かりました。素性が正しいのでしたら喜んで引き受けましょう。こちらも人手不足ですから」
お幸とお雪とはすぐに仲良くなった。
またその息子の1歳の仙吉もすぐにお幸になついた。
「ああ、お幸さん私にどこか似ているわ。
いつまでもここに暮らして欲しいわ」
「ありがとう。私もお雪さん大好き。でもお父さんの仕事が終わったら帰らないといけないの」
「本当に残念ねえ、この着物あなたに似合うから上げる」と急速に仲良くなった。
しかし、1ヵ月後に佐々木小五郎が迎えに来た。
「どうしても帰らなければいけないの?
こちらの番頭が貴女をとても気に入っているわ。
結婚していつまでもここで暮らしてくれるわけにはいかないの?」
「残念だけど・・・」
「じゃあ仕方が無いわね。お手紙書いてね。
私あなたを妹のように思っているわ」
「私もお姉さんのように思っています。
残念だけど大阪に帰らなければなりません」
「じゃあ、無理が適ったらこちらで働いてね」
「ありがとう。さようなら」
お幸は寺に戻った。
「明朝、皆がここに集まるから今夜はここで寝てください」
「分かりました。いよいよね」
次の朝起きると、もう佐々木が来ていた。
それにタライにお湯が張られてあった。
「さあ、お湯にお入りなさい」
「ありがとう。恥ずかしいから出て行って下さい」
「いや、私と貴女の仲じゃないですか。
見ていてもいいでしょう」
「そうねえ、恥ずかしいけど」
と裸になりお湯に浸かった。
「背中洗いましょう」
「恥ずかしいわ」
「遠慮なさらず」
「はい」
「手を後ろに廻して」
「どうして」「いいから」とお幸が手を後ろに廻すといきなり手を縛られた。
お幸は戯れだと思い「やあねえ」と言った。
「まだ分からない?お前は嵌められたのだよ」
「どういうこと?」
「お前の仲間は昨夜、皆殺されました。
仲間の女房子供もです。それに貴女の乳母もです」
「どういうこと」
「そういうこと」
「騙したの?」
「そうさ、お前の仲間を一網打尽にするためにな。それにお前が自殺したら糸屋の家族もみんな殺されることになるな。お雪も仙吉もな」
「悔しい」
「悔しがるがよい。私を憎め」
「酷すぎます」
「酷すぎるか。じゃあお城までこのまま行こうか」
「どういうこと」
「さあ行こう」
お幸を裸後ろ縛りのまま階段を下りた。
「罪人」の札を首にぶら下げてそのまま外に出た。
「嫌、裸のまま歩かせないで」
「罪人が何を言っている」
白昼なので人の往来も激しい。たちまち人だかりになった。
「何で全裸のままで歩いているんだ」
「殿様を殺そうとしたんだ」
「それでか、じゃあ死刑になるのか」
「そうかもな」
「もったいない。綺麗なお嬢さんなのに」
「おっぱいがきれいだねえ。形がいい。
マン毛もいいなあ。どうせ殺すならやらせろよ」
「まあ、そうもいかんだろうから良く見ておけ」
「美人だなあ。眼の保養になるな」
「恥ずかしい。後生です。見ないで下さい」
「そうもいかないなあ」
お幸は恥ずかしくてたまらなかった。
お城に着いた。
城の中を皆が見守る中、裸後ろ縛りのまま天守閣まで昇って行った。
そこに市川団兵衛がいた。
「おう、裸でお越しとは」
「いい気味でしょうね」
「そうだな。糸屋にお前の姉がいるそうだな」
「姉には手出しをしないで下さい」
「お前が俺の言うとおりにするなら何もせんよ」
お幸は考えた。自分のせいで仲間が全て殺されてしまった。自分以外は生きている人間で市川団兵衛を恨んでる人はいない。自分ひとりが我慢すればお姉さんも無事で何事も無く済んでいくと。
「何でも言うことを聞きますから糸屋には手を出さないで下さい」
「おう、俺の言うとおりにすればな」
市川団兵衛は喜んでお幸を独り占めにした。
お幸は何でも言うとおりにした。
団兵衛はだんだんお幸に夢中になってきた。
「この着物はどうじゃ、お前に良く似合いそうだ」
「芝居に連れて行ってやろう」とか・・・。
収まらないのは家来達だった。
17年前、ずっと奥方を共有する約束だった。
それなのに殿が娘を独り占めしていいものか。
「殿様、お幸は皆で共有すべきです」と面と向かって刃向かう者もいた。
「殿を殺そうとしたんだから死刑にすべきだ」
「何言ってやがる。俺が殿様だ。俺の思うとおりにする。なんで殺せるものか」
殿様の言葉に不満ながらも家来達は従った。
佐々木小五郎は褒章として殿様から五十石をもらい有頂天になっていた。
他の者達は面白くなかった。
ある日殿が留守の時、佐々木はお幸を呼んだ。
「何でしょうか」
「今日は、裸で過ごせよ。家来達の前でもな」
「そんな事出来ません」
「仕方ない。糸屋の姉のことを知っているのは俺様と殿様だけなんだけど、家来達にも告げようかな」
「そんな止めてください」
「じゃあ、俺様の言うことを聞け」
「分かりました」
お幸は着物を脱いだ。
「さあ、家来達の所に行こう」
お幸を裸にして廊下を歩いて連れて行った。
家来達が集まっていた。
「やや、本当にお前の言うとおり裸で来た」
「そうさ、俺様が言えば言うことを聞くのさ。
さあ賭けに勝ったのだから一人一両ずつ渡せ。
その代わり、お幸のどこを触ってもいいぞ」
「じゃあ、一両分、満足しないとな」
お幸の乳房、前後を触りまくった。
「かわいいなあ」
「ここ感じるか?」
「痛い」
「おい、乳房をそんなに強く噛むと痕が残るだろうが、殿様にばれるぞ」
秘部に指を入れ掻き回した。
「あっ、あっ」
「感じているようだな」
「露出狂だな」
「さあ、時間だ。そろそろ戻らないと殿様にばれるぞ」
数日後の夜、佐々木は稼いだお金で遊ぼうと仲間を誘って街に繰り出そうとした。
「やあ、虎尾金輔殿、先輩もどうです?
おごりますよ」
虎尾は今まで部下だった佐々木が上司になったので面白くなかったが逆らえなかった。
「じゃあ、おごって下さい」
酒場で佐々木は虎尾に絡んできた。
「今までは怖い上司だったけど、今では猫みたいですね。どうです。猫尾と改名しては?俺が頼んでおこうか。殿様は俺の言うことなら何でも聞くから」
「何だと、下手に出ていれば調子に乗りやがって」
「へん、俺様に逆らえないくせに。
殿様に言っておこうか。虎尾はお幸の乳房を掴んでチュウチュウしていたと」
「表に出ろ!」
「ああ、怖い怖い。暴力は反対だね」
虎尾は佐々木の首根っこを掴み外に出し刀で一刀両断にした。
「あっ、殺ってしまった。どうしよう」
「ああ、これは良くて切腹ですね」
「嫌だ、こんな者のために死にたくは無い」
「でも、喧嘩両成敗ですから」
「どうかならねえか?」
「どうにもなりませんね」
「嫌だ、死にたくない。殿様より人望のある俺様がなぜこいつのために死ななければならないのだ。
そうだお幸のせいにしよう。
お幸の今日の行動を調べてくれ。内密にだぞ」
「判りましたよ」
お幸は食事も寝る時も殿様と一緒だったことが判った。ただ四半時くらい1人でお風呂に入っていた。
「お幸様が佐々木を殺すのは無理です」と家来が言ったが、どうしてもお幸を犯人に仕立て上げようと虎尾は考えた。
「風呂に入る時間で殺せる」
「でも四半時くらいでは無理です」
「四半時あれば行って帰って来れる」
「でも、着物を脱ぐ時も次女が一緒でしたし着物を着るときも次女の手で着たそうです」
「そうだ、裸で行ったのだ。尻の穴に短刀を入れて裸で会いに行き殺してから風呂に急いで戻ったのだ。
短刀が現場に落ちていた。お前達もお幸が裸で外を歩いているところを見たのだ」
「それは無理です。私は証言しません。
もしばれて虎尾様と同罪になるのは嫌です」
「いいじゃないか。ばれるわけが無い。
証人は多いほど良い」
「嫌です。そんな協力はしません」
「分かった。そう言うなら俺だけが見たことにしよう。短めの短刀買って来てくれ」
「ばれても知りませんよ」
「死体が発見されたら口裏を合わせてくれ。
悪いようにはせんから」
次の日、佐々木の死体が発見された。
「誰が殺したんだ。袈裟懸けに切られている」
虎尾が言った。
「そう言えば、若い女が裸で走っているのを見た。一瞬だったので確信はないがお幸様に似ていた」
家来が言った。「現場近くにこの短刀が落ちていました」
「お幸を疑っているのか?昨日はずっと一緒だったぞ」
「風呂に入る時もですか?」
「いや、風呂は一人で入ったようだが短時間だったから無理だ」
「裸で行けばできるんでないでしょうか」
「お幸を犯人にしたいみたいだな」
「いや。まさか。疑っているわけじゃないけれど、
現場で見かけた裸の女がお幸様に似ていたものですから、ちょっと不審に思っただけです。
私が本人に確認してもいいですか」
「拷問して聞き出すのでなければな」
「分かりました。裸の女がお幸様でないか確認するだけです。ちっとも疑っていません。
お幸様は親方がいない時に裸でうろうろしているのをよく見かけているので、もしかして裸で外も歩いているのかなあと思いまして」
「俺がいない時、裸で歩いているというのか」
「はい」
「他の者、本当か」
「私も見たことがあります」
「私も」
「拙者も」
「俺がいない時、そんな破廉恥なまねしてたのか」
「はい」
「じゃあ、勝手にしろ」
「分かりました」
虎尾はお幸の所に行くと
「佐々木小五郎が死んだ」と告げた。
「えっ、本当ですか」
「うん、それでお前が疑われている。
もうじき、役人がやって来る。拷問されるぞ」
「いつ死んだのですか」
「今朝、死体が見つかった。昨夜殺されたらしい」
「どうやって殺されたのですか」
「刀か何かで切られたらしい」
「私は昨日は殿様とずっと一緒でした」
「分かっておる。風呂に入っている時間以外はな」
「ええ」
「で、風呂に入った時間に実は入らないで佐々木を切ったのだといううわさだ」
「佐々木様を私が殺す理由が無いじゃないですか」
「佐々木のせいで、お前の仲間が殺されたのだし、家来の前で無理やり裸にされたのだから理由はあるわな」
「そうですね」
「だから、拷問で吐かせられると思うぞ。
石抱き責めとか水攻めとかな」
「私は死ぬことは何とも思っていません。
だけど苦痛を受けて死ぬのは嫌です」
「じゃあ、これに署名しろ」
と巻紙を出してきた。
「最後の部分に私が佐々木小五郎を殺しましたと
書いて書名しろ」
「最後の部分だけでいいのですか?」
「ああ、後は俺が適当に書いておくから」
「でも・・・」
「信用しろ。時間がないぞ。もたもたしていると役人が来るぞ。俺が時間をかけて残りの部分は書いておくから」
「分かりました」
と署名した。
虎尾は早速戻って自分の都合の良い言葉を考えて部下に文章を書かせた。
それを持って殿様の所に行った。
「風呂に入る時間でお幸が殺して戻って来られる訳が無いだろう」
「じゃあ、今夜、実況見分をやってみましょう」

夜、お幸は風呂場に連れて行かれた。
殿様も家来達も着いてきた。
そこで虎尾はお幸に着物を脱げと言った。
「えっ」
「実況見分をするから着物を脱げ。風呂に入ろうとしたんだろう」
「でも、皆さんが見ている前では脱げません」
「何言ってやがる。先日殿がいない時は皆の前で脱いだではないか」
「本当なのか?」
「ええ、ちょっと事情があって」
「そんな、俺がいなければ家来達の前で裸になれるのか?そんならここで早く裸になれ」
お幸は仕方なく裸になった。
虎尾はお幸を後ろ手に縛った。
「何をするのです」
「裸で佐々木を切るくらいだから、縛らないと危ない」
虎尾は小刀をお幸のお尻の穴にねじ込んだ。
「痛い」「痛いと言っても入ったではないか」
「じゃあ、これから現場に行くぞ」
「裸です。何か着せてください」
「お前が裸のままで酒場の前に行ったと言うから、そうしているまでよ」
「裸のままで外に出るはずないでしょう」
「お前、変な事言ってるな。自分でそう巻紙に書いたくせに」
「そんな」
「見せてやろうか。これこのとおり」
お幸は虎尾に嵌められたことに気がついた。
自分の文字に似せて書いてあった。
裸で後ろ手に縛られたまま城の外に出た。
町人が何事だろうと遠巻きに見ていた。
恥ずかしい。
酒場の前に着いた。
「小刀を出せ」
お幸は小刀をひり出した。
「だが、こんな小刀で着物の上から袈裟懸けに切れるものかねえ」
「殿様を寝室で切るために必死に練習したのでしょう。そう深く考えることは無いですよ。
風呂場に戻りましょう」
「そうかな」
皆は風呂場に戻った。
「でしょう。戻って風呂に飛び込んでも四半時かからないじゃあありませんか。
お幸が犯人に間違いないですよ」
「ちょっと引っかかるがなあ。お前達がそう結論付けたなら仕方が無い」
「じゃあ、殿様を殺ろうと考えるかもしれないから早く処刑しましょうぜ」
「そんなに急ぐ必要ないだろう」
「そうだ、そうだ。こんないい女を簡単に処刑する必要はないぞ」
「では城に置いて置くわけにもいきませんから、
城の前に檻を作って入れておきましょう」
「お夕の様にか?」
「そうです」
「じゃあ勝手にしろ」
「分かりました」
虎尾は部下に命じて檻の中で皆に見えるように大の字に縛った上で立て看板を置いた。
看板には「お幸を抱きたい者は一両出すこと。
お幸を感じさせることが出来たら十両進ぜよう」と書いてあった。
部下は面白くないのでお幸に言った。
「お幸様が感じると町人に十両渡すことになっています。感じるふりをして虎尾様を困らせてやって下さい」
「分かりました」
町人がお幸に挑んできた。
おっぱいや、秘部を舌で舐め回した。
お幸は声を出した。
「あっ、あっ、感じる」
感じるふりをしていると本当に感じてきた。
「本当に感じてやがる」
「いいねえ、俺も一両持っていたら挑戦するのだがなあ」
お幸いの体がぶるぶると震え「イクー」と声を出して果てた。
「おお感じやがったぜ。十両いただき」
次々と挑んできたがその度にお幸は感じた。
虎尾は百両損を重ねたので怒り出した。
「やめ止め。いくらあっても足らんわ。破廉恥女め。
大勢の前でよくあんな声出せるな」と言って止めた。
お幸は檻の中で縛り付けられたまま朝を迎えた。
家来達がやってきた。
「これから磔台まで行進だとよ。その前に喉が渇いただろう。水をたっぷり飲ましてやるよ」と言って漏斗を咥えさせてお腹が膨らむまで水を飲ませた。
「おしっこさせて下さい」腰をモジモジさせ始めた。
「後でな」と台車に両手両足を大の字に縛り付け進み出した。
街の中へ入ってきた。町人が沢山見ている。
「前の殿様の娘だってよ。裸でかわいそうだね」
「殿様を切ろうとしたり家来の一人を殺したんだってよ。それも裸で」
「そうか、じゃあ仕方がないな。だけど、これじゃかわいそうだね」
「眼の保養になるな」
「乳の形がいいね。かかあとは食いもんが違うからかね」
「もったいないね。殺すことないのにねえ」
「そうだよ。どうせ殺すなら、やりたい奴にとことんやらせてくれたらいいのに」
とうとう磔台に着いた。
大の字に縛り付けられ高い所に立てられた。
「真っ裸のまま殺されるのかよ」
「裸で恥ずかしくは無いのかねぇ」
「裸を皆に見て欲しいと言ったそうだよ」
「本当かい?露出狂なのかねえ」
「お城では裸で家来達の前を歩いていたとよ。
それも殿様が留守の時毎回だったとさ。
家来とも寝たんじゃないかな。俺達町人とも寝てくれるのなら減罪をお願いするのによ」
「でも昨日、町人と寝てアアーって声を出して果てたらしいよ。感じさせたら十両出すというもんだからお城は百両も損したらしいよ」
「へえ、そんなうまい話、早く教えてくれよ。
俺様も自信があるのに」
お幸は眼を瞑っていたが話し声は容赦なく入ってきた。
(恥ずかしいから早く死にたい)
家来の一人がお幸に言った。
「殿様がこの線までおしっこを飛ばしたら早く死なせてやるとよ。
この線までだったら昼までに死なせてやるとよ。
この手前の線以下だったら餓死するまで磔のままにしておくとよ。
お前、おしっこしたいんだろう。頑張って遠くへ飛ばせよ」
お幸が眼を開けると何本か線が引いてあった。
お幸はもうおしっこを我慢できなかった。
どうせ恥をかくなら早く死にたいと力いっぱいおしっこをした。
「あっ、おしっこをしやがった」
「女がおしっこをするの見たことないが、こんなに飛ばすとわねえ」
「年頃の女のくせに恥も外聞もないのかねえ」
家来が言った。「残念だな。ちょっと勢いが足りなかったな。昼頃まで死ぬのを待つんだねぇ」
(えっ、こんなに恥をしのんで頑張ったのに)
昼になった。
役人が槍を持ってきた。
「何か言うことはないか?」
「ありません」
「じゃあそろそろやれ」
「これから、お夕様の死刑執行を執り行う」
とその時、
「その刑の執行待った!」と大きな声がした。
虎尾が後ろ手に縛られ連れて来られた。
「短刀の購入者が分かりそいつが口を割った。
佐々木小五郎を殺したのは虎尾金輔だと分かった。
それをお幸に罪を擦り付けたのだ。
虎尾を磔の刑に処す。すっ裸にしろ」
虎尾は褌も外され真っ裸のまま磔にされた。
「お幸にしたことと同じことをする。この線以上おしっこを飛ばしたら直ぐ殺してやる。この線までだったら明日の日の出の時。この線以下だったら餓死するまでこのままだ。おしっこをしろ」
しかし虎尾の一物は縮こまっていた
しばらくすると小便が出てきたが勢いがなかった。
「じゃあ、餓死するまでこのまま磔にしておく」
しばらくして市川団兵衛がやって来た。
「いつまで、お幸を磔にしておくのだ。
早く降ろしてやれ。虎尾、俺様より人望があるそうだな。そこで、提案だが30日磔にしておく。
それまで生きていたら刑を減免して島流しにしてやろう。
30日間食事を恵んでもらえ。
しかし金で恵んでもらう訳にはいかなそうだな。
100両使ってしまったそうだしな。
じゃあ30日後に生きていたらまた会おう。」
団兵衛はお幸に言った。
「裸じゃかわいそうだな。これ虎尾の着物がある。
これを着てお城に戻るか」
「虎尾さまの着物は嫌です」
「じゃあ裸で戻るしかないな」
「嫌ですう」
「もう遅い。裸で腕を組んで帰ろう」
お幸は嫌がったが裸のままで戻ることになった。
野次馬が声をかけてきた。
「おお、いいねえ。これからも弁天様拝ませてくれよ」
「これからも露出狂でいろよな」
「私は露出狂じゃありません。殿様が無理やり裸で歩かせているだけです」
「じゃあ、殿様、これからもお幸様を裸で散歩させてください」
「そうだな、考えておく」
「考えないで!」
虎尾は大声で叫んだ。
「誰か、飯を頼む。御礼ははずむから」
方々で返事が返ってきた。
「誰が飯食わしてやるか。人に罪を擦り付けて。
その上、そいつで金を儲けようとした奴に」
「約束なんて信用ならねえ」
「本当にお礼するから」
「島流しに遭って金があると思えなねぇ」
「誰か助けてくれよう」
(おわり)


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